第86話 不穏なデートのお誘い
嵯峨の言葉を聞くとかなめはまだつけたばかりのタバコを揉み消して血相を変えて立ち上がった。
「あの馬鹿、なんか考えてるな。どうせろくなことじゃねえんだ。オメエ等行くぞ!急がないとアイツの口車に『義理と人情の二ビットコンピュータ』のランの姐御が言いくるめられて神前をわがものにする計画が出来上がっちまう!」
そう言うとかなめはサイボーグの怪力で誠の襟首を掴んで機動部隊の詰め所を目指した。
「私もかえでちゃんのする事には興味があるから……どんな変態プレイがお望みなのかしら?」
シュツルム・パンツァーでもないアメリアもかなめについて機動部隊の詰め所に怒鳴り込んだ。
「おい!かえで!テメエ何考えてる!」
機動部隊の詰め所に入るなりかなめはそう叫んだ。
機動部隊長の『ちっちゃな英雄』クバルカ・ラン中佐の大きな机の前で真剣な表情でランを見下ろしていたかえでが振り向いた。
「これはお姉さま……ごきげんよう。それに『許婚』である誠君までいるとは、僕はついているようだ」
それまでの真剣な表情を崩して満面の笑みを浮かべたかえでが誠達に振り返った。
「日野少佐。朝からクバルカ中佐に上申することが有るとは……実に仕事熱心なことだな」
皮肉を込めたような口調でカウラはそう言ってかなめを押しのけてかえでとその隣に静かに立つリンの傍まで歩み寄った。
「いや、別に僕は仕事上の話をクバルカ中佐としている訳では無いんだ……ただ、クバルカ中佐には許可を取ってから僕は前に進みたい……そう考えているだけの話なんだけどね」
かえではそう言って視線を誠に向けた。
「僕ですか?僕と何を前に進めるつもりなんですか?いよいよ結婚ですか?でもそれはちょっとまだ早いような……」
誠は突然かえでに向けられた熱い視線に嫌な予感を感じながらそうつぶやいた。
「日野が今度の休みにオメーとデートをしてえんだと。その許可をわざわざアタシに求めてきた。おい、日野。アタシは手をつないでキスまでの男女交友しか認めてねえぞ。婚前交渉などもってのほかだ!オメーの魂胆は分かってる!アタシは絶対にエロい事をするのは認めねー!それが前提なのなら考えてやらねーわけでもねーがな」
どう見ても8歳児にしか見えないランはいつになく不機嫌そうにそう言い放った。
「それは分かっていますよ。でも、男と女の恋の話です。誠君が僕の魅力に負けてしまうかもしれない……僕としては全然かまわないのだけれどそれはクバルカ中佐の意に反することらしい。誠君、君の予定はどうなのかな?」
かえでの顔が急に妖艶な笑みに包まれる。
「一応……暇ですけど……」
誠にはそう答える事しか出来なかった。
「いいや!コイツには用事がある!アタシは千要駅前のコンコースでギターを弾くからそん時の観客が必要だ!そこに神前を連れて行く!だからかえで!オメエのたくらみは終わりだ!諦めろ!」
かなめは強い調子でそう言うとかえでの目の前に立ちはだかりその殺気を帯びたたれ目でかえでをにらみつけた。