第81話 月3万円の男からの脱出
誠は隊に着くと制服に着替えていつものように廊下を歩いていて、機動部隊の途中にある喫煙所で奇妙な光景を目にした。
そこには手に銀行の通帳を持ちニヤニヤ笑っている嵯峨の姿があった。その満面の笑みには誠から見てもだらしなさしか感じなかった。いつもならタバコが減るのを気にして常にタバコをくわえている貧乏人の彼がタバコが消えるのも気にせずそうしている光景に誠は不安を感じた。
「隊長……通帳なんか見て何してるんですか?それにそんなにうれしそうな顔をして……オートレースでまた勝ったんですか」
誠はとりあえず気になったので嵯峨に尋ねてみた。
「神前か……俺って……実は金持ちだったんだな……」
相変わらずうれしそうな笑みを浮かべて誠の顔を見上げた嵯峨はそう言った。
「そりゃあそうでしょう。甲武の四大公家の前当主でしょ?あの金遣いの荒い西園寺さんと同じ四大公家ってことはそれなりに収入が有る訳で……それに隊長は国際機関『遼州同盟機構』の警察や公安当局を統括する『司法局』の実力部隊司法局実働部隊の隊長じゃないですか。それなりに貰ってるんでしょ?給料」
誠は嵯峨に向けて呆れたようにそうつぶやいた。
「四大公家の年金の明細。そして俺の給料明細。どっちも俺見たこと無かったんだ。全部茜の奴に取り上げられて見させてもらったことが無かった。だから俺がいくら給料を貰ってるか知らなかった。そしてその金は全部茜が財テクに回してるとは聞いていたがその結果もまるで知らなかった」
嵯峨はここで突然我に返ったようにタバコを取り出し火をつけた。
「その金、凄い金額だったことがこれで分かったんだよ。茜の奴は結構やり手だったんだな。そしてその結果がこれ」
そう言うと嵯峨は通帳を誠に見せた。
初めのうちの記載はまるで小学生がお小遣いを管理するために使ってるんじゃないかと言う百円とか五十円ばかりの金額が並んでいた。
「隊長……よくこんな経済状況で……!」
誠は最後のページの誠の見たことの無いような金額の入金の記録に度肝を抜かれた。
「なんですか!この金額は!20億円!そんなにどうやって!強盗でもしたんですか!」
誠はこれまでの百円単位の入金記録に唖然としていたところに突然入金された記録に驚きの声をあげた。
「うん、俺も初めて見た時信じられなかった。俺の給料や年金てそんなに多いのかなあって次に思った。通帳の記入をした後に茜になんでこんな金額なんだって聞いたら、アイツは俺の給料と年金をかなりの額投資に突っ込んでたらしい。あれってギャンブルだよね?でもまあ俺は勝ったんだよね?だからこうして俺は一人の億万長者になれた……俺はいま億万長者なんだよね?宝くじだって当選金て3億じゃん。それに対して俺の持ってる現金は20億。お金持ちだったんだ、俺って」
嵯峨はそう言うとニヤニヤと笑い始めた。そして再びタバコを置いてじっくりと通帳を眺め始めた。
「隊長。持ちなれない金を持つと普通の人って破滅するって聞きますけど、今の隊長の顔。その典型例のような顔をしてますよ」
誠は面倒くさそうににやける嵯峨に向けてそう言い放った。