第80話 罪な男と言う奴
「新さんも残酷だねえ……新さんの生きる場所は常に戦場。でも、そこについて行ける女は手を出してはいけない女。手を出していい女は新さんには足手まといになるだけ……それでも新さんは戦い続ける……なるほどねえ……あの安城とか言うお堅い女に新さんが手を出そうとしたのも分かる気がするよ。確かあの女は戦闘可能なサイボーグだと言う話じゃないのさ。だったら新さんの本来の居る場所である戦場でも傍にいることが出来る。だからか……」
お蔦はそう言ってため息をつきながら干したイカを口に運んだ。
「どうしてあの人ばかり戦わないといけないのかしら……あの人の代わりなんていくらでもいるような……」
春子の言葉を遮るようにランがその鋭い眼光で春子をにらみつけた。
「居ねーな。あの『駄目人間』の代わりが務まる男はアタシが知ってる限りこの宇宙には一人も居ねー。あの男が居なければアタシは負けていなかった。そしてまだ罪もない人々を殺し続けていた。当時、アタシを止められたのはあの男が『女神』を部下として引き連れていたからだ。アタシを倒した『女神』はあの男の言うことしか聞かねー。だから、あの男が居ない限り遼南統一は無かった。遼南の戦乱は続き、当然遼州同盟なんて言う国際組織も存在していねー。遼州の元地球人達は再び対立をはじめ次の大きな戦争がこの星系を覆う。でもこの星系にはあの『駄目人間』がいる。だからそんなありもしない戦争は起きねえ。あの男が生きている限りこの遼州は大方平和だ」
ランははっきりとした口調でそう言い切った。
「でもクバルカ中佐とか言ったね。女ならたぶん最初は痛いとは思うけどその身体でも新さんの相手を出来ると思うよ。甲武の女郎屋でもアンタくらいの女の子を専門に売ってる店があった。何なら今夜あたり試してみるかい?アタシが見ていてあげるよ。アンタは戦士だろ?痛いのは最初だけらしいからすぐに慣れちまって新さん無しでは生きていけない体になれるよ。あの新さんならあんたの事も喜んで受け入れてくれるだろうしね」
お蔦のその言葉にランは真っ赤になってお蔦をにらみつけた。
「アタシは無理してでも隊長とそんな関係になりたいわけじゃねえ!それにアタシが好きなのは戦士として、そして策士としてのアイツだ!しかもアイツは自分で『俺は熟女マニアだ!』と宣言してるんだぞ!お前こそ自分の娘より年下の姿でよくあの性的異常者の相手が務まったな!」
ランは激しい口調でお蔦に向けてそう言い放った。
「そりゃあ、アタシは花街一の太夫だよ。最初は新さんも嫌がってたけどアタシの口でアレを舐めあげてあげるとすっかり元気になって……そっから先は大人の世界さ。アンタには口にできないね」
「アタシも聞きたくねー。あの『駄目人間』の見境なさを思い出すと腹が立ってくる」
得意げに語るお蔦を見てランは不機嫌そうにそう言うと烏龍茶を飲んだ。
「誰もが思うようには生きられない。あの頭のいい新さんでも運命には逆らえない。私も、お蔦さんも、クバルカ中佐も結局運命に流されて新さんと出会い、こうして新さんと一緒に居る。出会い方は違うけど……今はそれでよかった。そう言うことにしておきましょうよ」
春子は二本目の熱燗をつけながら笑顔のお蔦と不機嫌そうなランに向けてそう笑いかけた。