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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『駄目人間』の青春と初めてのデート  作者: 橋本 直
第二十話 『駄目人間』が戦場に置いてきた心

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第76話 看板の店に現れた女

 春子は一息つくとそのまま店を出て暖簾を仕舞おうとした。


「しばらくこのお店の接客は私一人でやらなきゃいけないのかしら……小夏は高校の進学の準備もあるし、あの子には私みたいな思いはさせたくない。だから、ちゃんと勉強をして大学に行って、それなりの企業……ああ、あの子は東和宇宙軍に入るのが夢だったわね。まあ誠君が言うにはあの高校からは誠君の言った大学……東都理科大学だっけ?千要東高校だと学校の成績が悪くても一流大学に入れるんだから……あの子には私の歩んだ道は歩ませたくない。立派な誰にも後ろ指さされない人生を歩んでほしい。それだけ」


 そんな独り言を言っていた春子は背後に人の気配を感じて振り返った。


 そこには見慣れない日本髪の女性が立っていた。月明りで良くは見えないが面差しのはっきりとした気の強そうな若い女性。


『誰かしら?こんな豊川なんて田舎に芸者さんなんて……ここは東都の下町じゃないのよ』


 春子は女を無視して店を閉めようと暖簾を持って店に入ろうとした。


「あんた、春子さんだね」


 若い女は突然そんなことを口にしたので驚いたように春子は女を振り返った。


 どう見ても二十歳くらいの見たことのないまるで一流の時代劇女優を思わせる美しい面差しの芸者風の女は襟元に手をやりながら春子に歩み寄ってくる。


 春子も風俗嬢時代に芸者に転身した変わり種の仲間がいたこともあったが、それももう十年も前の話である。それに女の立ち居振る舞いはどう見ても二十歳の若い子にしては落ち着きすぎていた。


「すいませんが……もう、うちは看板なんで」


 この場をやり過ごそうと春子は若い女に向けてそう言った。


「お店に来たんじゃないよ。アタシはアンタに用が有って来たのさ。同じ男を好きになっちまった者同士として一緒に飲もうと思ってさ」


 電灯に照らされた日本髪の女性はまさに絶世の美女と呼ぶにふさわしいものだった。その美しさに春子は気おくれしたように戸惑いの笑いを浮かべた。


「同じ男を好きになった……ぶしつけながら私が誰を……」


 春子は不思議なことを言う女にけげんな表情を浮かべてそう言った。


「新さんだよ。アンタも新さんに助けられたことがあるって話じゃないか……それに何度か抱かれたこともある……違うかい?」


 はっとしたように春子は思わず手にした暖簾を取り落としそうになった。


「新さん……あの人をそう呼ぶってことは、あなたは今、吉原(きちはら)に勤めてるのかしら?でも新さんに花魁プレイなんていうお金のかかることが出来るとは思えないわね」


 春子は笑いながら女を見つめた。


「なあに、アンタよりアタシの方が新さんの事は詳しいのさ。なにせ新さんが16の時からの付き合い……もう三十年の付き合いなんだもの」


 少し誇らしげにその若い日本髪の女はそう言った。春子は女の見た目と三十年と言う言葉の矛盾に気が付いて何かあると悟った。


「少し話が良く分からないんですけど……お話が有るんですね。じゃあ、入ってください」


 春子はそう言うと女を店の中に通した。

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