第73話 かえでの話す『結婚後』
「まあ、君はあまりこういう話をこういう場所でするのは好きではないようだね。僕は常に先を見て行動するようにしている。君に欠けているのはその視線だと考えているんだよ。ただ、そんなことは些細なことだ。君はただ僕に身を任せて僕からそれを学べばいい……夫婦は欠点を補いあうものなのだから……当然だと思わないかい?」
かえでは甘えるような口調で誠にそう言うとワインを口に含んだ。
「確かに僕は隊長の罠にあっさり引っかかってここに入って、クバルカ中佐がほのめかすのも理解できずに自分の力の意味も分からず戦って……場当たり的だったことは否定できないですが、そこまではっきりと否定されると少し傷つきますよ……それに夫婦になることは前提なんですか?」
誠は強引なかえでの言葉に戸惑いながらそう返した。
「僕は結婚後の事についてもしっかり考えて君が『許婚』である現実を受け入れているんだ。まず、僕は君との間に子供を三人作る。三つ子で産むつもりだ。その準備もできている……」
そう言うかえでの言葉に誠は嫌な予感に包まれた。
誠は以前寝ている間にかえでの副官のリンに侵入され、股間のモノの大きさと精子を摂取されたことを知っていた。そして、誠の精子はかえでの委託した研究機関で培養されかえでの性生活のおもちゃとして使用されていることは誠のトラウマの1つだった。
「すでに、日野家、神前家の受精卵は用意が出来ている。しかもどちらも娘で法術適性があると言うのが僕が依頼した研究機関の見立てだ。そして、君と僕が結ばれた時、甲武四大公家嵯峨家の跡取りの受精卵が手に入ることになる。先ほどの受精卵を僕の子宮に着床させ、三つ子として僕は出産するつもりだ。僕には何度も出産をしてその度に時間を取られているほど暇では無いのでね。僕にはやるべきことがあまりに多い。しかし、嵯峨家、日野家、神前家の跡取りは僕自身で産むことを望んでいる。だからそうするようにリンには手配を進めてもらっている」
上品にネギまを食べながらかえでは冷静にそうつぶやいた。誠はあまりに唐突に生々しいことを口にするかえでに驚きつつ、乾くのどに流し込むようにしてワインを飲んだ。
「それだけではないよ。僕は優秀な被官を求めている。幸いうちにはリンをはじめ優秀な女性達がいる。この女性達に君は子をなしてもらう。彼等はリンは遺伝的に他の四人は純粋な地球人だ。つまり、覚醒した法術師である誠君の精を受ければその子は必然的に法術師になる……法術師の信頼できる被官を多数抱えている四大公家の当主。甲武にこの人物に対抗しようと言う勢力が現れるかな?あの生まれだけが自慢のいけ好かない貴族連中も僕の軍団相手に勝負を挑むほど馬鹿では無いだろうね。そして僕は甲武のすべてを手に入れる」
かえでのほほえみにはどこか狂気のこもった策士のそれが宿っていた。誠はそれを見てかえでもまたあの嵯峨の血のつながった親戚なのだと改めて思った。