第67話 出来る事、出来ない事、そして……
「だが、『徳川譜代』の『官派』の頭の中なんて伝統一杯のがちがち頭だ。そう簡単に島津になびくとは考えられない。だから、島津の野郎はこれまで表舞台には出ずに響子を看板に掲げて行動してきたんだ。その看板が今回裏切った。そして自分が表舞台に出るしかなくなった。あの爺さんももう90に手が届く年だ。奴に残された時間は少ない。自分に軍事的才能が無いのも十分に分かっている。ならば、抑えが効かない『殿上会』や貴族院を捨てて親父の牙城である庶民院を切り崩す。それが島津の爺さんの考えそうなことであの爺さんの限界だ。親父を支持している平民や下級士族出身の議員は多くが袖の下を貰っている。そのことは島津の爺さんも知っている。親父はそう言う政治家は大嫌いだ。だからそれを親父にバラされたくなければ味方になれ。そうやって一人ひとり寝返らせる気だ」
かなめはそう言うと静かに立ち上がった。
「つまり政治的緊張は高まるが軍事衝突には発展しないと言うんだな?それならばいい。それこそ貴様の父親の得意とする弁舌合戦と言う戦いの舞台じゃないか。せいぜい応援してやれ」
カウラはそう言うと急に関心を失ったように画面のパチンコゲームに目を移した。
「そんな簡単に済むんですか?平和裏に事が進むのは良いことかもしれませんが……甲武のあのおかしな国の形が永続するのは良いことだとは僕には思えないんですけど」
誠は煙草の箱を取り出したかなめに向けてそう言った。
「カウラも言ってたろ?これは政治案件だ。響子は失脚した。『官派』は庶民院の制圧にしか関心の無い島津時久が握っている。そしておそらく陸軍の掌握もアイツは考えている……アタシが国に帰りたくねえ口実がまた一つ増えた訳だ」
かなめはそう言うとそのまま機動部隊の詰め所の扉に向けて歩いて行った。
「ああ、そうだ!神前!」
急に振り返ったかなめは誠に向けて歩み寄ってきた。そして開かれた扉から入って来たランと第二小隊の面々を見ながら誠の耳に口を近づけた。
「今日もまた飲みに行くぞ」
かなめはそう言って笑った。
「今日もですか?昨日もじゃないですか!」
そう叫んだ誠にかなめは口に手をやり大きな声を出すなと指示した。
「昨日はランの姐御が荒れまくって滅茶苦茶やっただろ?女将さんも迷惑してたみたいだし……だからその詫びもかねて飲みに行くんだ。その代わりにかえで達を呼ぶ。アイツは自前で高いワインをあの店にワインセラーを設置させておいてるくらいだ。それをアイツに飲ませる。あのワインの持ち込み料は相当な金額だからな。それで昨日の姐御の無茶はチャラになるわけだ」
かなめはそう言ってにやりと笑った。
「そのどさくさに紛れて日野少佐に払いを全部押し付けようと言うんだろ?貴様の考えそうな話だ」
小声でつぶやくかなめの声を人造人間の強化された聴力で聞いていたカウラがそう言ってため息をついた。
「そんなこと考えてねえよ!じゃあアタシはタバコを吸って来るから!神前、オメエは『許婚』なんだからオメエが誘えばかえでも乗ってくる!後は頼んだぞ!」
そう言ってかなめは部屋の外へと出て行った。