第66話 今後の『官派』の動向
「でも軍人が『官派』の主導権を握ったとなるとさらに甲武の情勢は不安定化するんじゃないですか?だって元がつくとは言え軍人で陸軍に発言権が有って、階級は元帥。そうなる甲武陸軍は思うがままに動かせるってことですよね?」
誠は軍部が力を持てば政権が倒れるものだと思い込んでいた。
「そこんところは……さっき言ったようにあの爺さんは慎重を売りにしている男だ。そう簡単に勝つか負けるか分からない賭けに出るとは考えにくい。だから、逆に身内には引き締めを図るだろう。これまで見たいに近藤の野郎のような独走をあの爺さんが身内に許すわけがない。だから情勢は逆に安定する……その分親父としては動きにくくなるだろうな。とりあえず自分の牙城である陸軍を固めにかかる。まず何かあるとすればその状況にひと段落ついてからだろうな。それと親父が見捨てた『民派』の支持を受けて当選した庶民院の汚職議員。こいつ等を全部丸呑みする。そうすれば自然と議会での発言権も手に入ることになる。まあ、時間はかかるだろうがな」
かなめはそう言って苦笑いを浮かべた。
「得意の政治力で議会に働きかけ、庶民院を支配する西園寺義基をけん制する……そう西園寺は見ているのか?」
カウラはしずかにかなめに向けてそう言った。
「そう考えるのが普通の見方だな。あの爺さんは軍人より政治家に向いてるんだ。『殿上会』の四大公家の威光は絶対だ。その四大公家のうち西園寺家のアタシは『殿上会』には行かないから抑えるのは残りの三家となる。とりあえず、これまで担いできた神輿だった響子はあっさり見限った。かえでの奴は……絶対に親父を裏切らないから自分の言うことを聞かないのは明らかだ。ここで出てくるのが四大公家第三位の田安家……あの、馬鹿の麗子なんだが……」
そこでかなめはにやりと笑った。
「田安家は徳川の嫡流だ。田安麗子を『征夷大将軍』として信奉する『徳川譜代』の武家貴族や士族の連中は、討幕を指揮した島津家を今でも恨んでいる」
カウラはそう言ってかなめを見つめた。
「そうなんだ。自分の家柄にしか取り柄が見いだせない麗子の奴は未だに討幕されたこと、特に島津時久を憎んで目の敵にしている。アイツが海軍に入ったのも島津の名を聞きたくないと言っていたくらいだ。だから『殿上会』ではどうしても島津時久の政治力は発揮できない。だから政治的圧力をかけるとなると枢密院と庶民院なんだが……」
かなめは頭を掻きながら誠を見つめた。
「そう言えば以前『征夷大将軍』の田安麗子さんには異常に彼女に忠誠を誓う勢力があるとか言ってましたよね?僕がなんでって聞くと思いっきり馬鹿にするような視線で僕を見ていました」
誠は苦笑いを浮かべながらそう言った。
「そうだ、いわゆる『徳川譜代』と言う武家貴族の勢力だ。こいつ等は麗子の馬鹿がいかに馬鹿でも絶対にアイツを裏切らない。『徳川譜代』には『民派』も『官派』もいる。島津はとりあえずこの武家貴族の『官派』の連中を麗子から引きはがそうとするだろうな。国の為なら主君を売れ。なんなら俺が代わりに主君よりよりよい条件を提示してやるとか言って自分になびくように迫る。あの爺さんのやりそうなことだ」
かなめはそう言って苦笑いを浮かべた。