第65話 実権を握る『影の実力者』
「島津時久……聞かない名だな。元帥と言っても退役してかなり長い年月の経ったかなり高齢な人物じゃないのか?甲武陸軍の名簿にも載っていなかった」
カウラは難しい表情を浮かべてかなめにそう言った。
「そうだろうな。あの爺さんは軍を退役して長いのは事実だ。それに前の戦争でもあまり活躍らしい活躍をしていない……と言うか軍人としてはアタシから言わせれば無能に近い男なんだ。『官派の乱』の時は『官派』の首都制圧部隊を指揮していたんだが見事に失敗している。まあ、お袋の『法術師』としての力の前じゃああんなシュツルム・パンツァー二個中隊で西園寺御所を制圧できるなんて無茶な話だったんだがね」
かなめは島津をあざけるように言い放った。その視線には明らかに島津に対する敵意の色が見て取れた。
「そんな無能な人が……なんで最高実力者になれたんですか?『官派』ってそんなに人材不足なんですか?」
誠は正直に浮かんだ感想を口にした。その言葉にかなめはあきれ果てたような視線を誠に向けた。
「バーカ。戦争するだけが軍人じゃねえんだよ。戦争と言うのは政治の一暴力形態に過ぎないんだ。あの爺さんの得意とするのは戦いじゃなくて政治だ。第二次遼州大戦ではまるで役に立たなかった爺さんだが、『官派の乱』ではその政治力をいかんなく発揮した。多くの『官派』の軍人達が、切腹、流罪、蟄居謹慎を命じられる中で、あの爺さんと爺さんを頼ってきた『官派』の軍人と官僚には親父も手を出せなかった……オメエが倒した近藤。アイツもそんな島津のじいさんの息のかかった軍人の一人だ。まあ、爺さんは慎重を売りにしているからあの馬鹿な近藤の旦那の決起に同調するような真似はしなかったが……あの時あの爺さんが動いていたらと思うとアタシは今でも寒気がするよ」
かなめはそう言うと静かにため息をついた。
「西園寺らしいと言えばそれまでだが西園寺、貴様が非正規部隊に配属になったというのもその島津時久の意向が働いていたんじゃないのか?」
カウラは鋭い口調でそう言った。
「さすが、我らの小隊長様だ。ズバリ正解。爺さんは親父の事が死ぬほど嫌いだ。その娘であるアタシの事も当然嫌いだ。陸軍に入った以上、徹底的にアタシを穢してやる。それが奴の考えそうな発想なんだ。まあ、これは後に知った話なんだがね。ただ、あの爺さんは陸軍内部の発言力を利用してアタシがいつ死んでもおかしくないような作戦。又はのちの傷が残るようなアタシを辱める作戦を提案しそう言う作戦にアタシを参加させるように影響力を行使した。……軍の内部でもモノを言うのは政治力なんだ。だからアタシは娼婦として東和の租界で諜報工作活動に従事することになった。すべてはあの爺さんのおかげさ……おかげで戦闘のスキルが身に着いたことには感謝しなきゃいけねえのかな?」
かなめは自虐的な笑みを浮かべて誠にそう言って笑いかけた。