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第64話 甲武国の地殻変動

「ちょうどその時親父の話し方が変なんで、親父が何処で誰と会ってるかを検索したら……こりゃあ、甲武はまた一山あるぞ」


 かなめの表情が急に緊張の色を帯びたのを見て誠の背筋に寒いものが走った。


「一山?一体何があるというんだ?西園寺義基は誰と会っていた?」


 かなめの言葉を聞いてようやくパチンコの画面から目を離したカウラがそう尋ねてきた。


「第三艦隊提督赤松忠満中将……昨日のお蔦の言葉を借りれば『忠さん』だ。叔父貴のご学友にして西園寺家の大番頭。甲武軍『民派』の大立者だ。そいつと国会期間中に極秘で会ってた……おそらく対立する『官派』の地殻変動と無関係とは思えないな。とりあえず近藤の死で海軍は『民派』がほぼ主要なポストを抑えている。だから海軍を味方に引き込んで『官派』の牙城の陸軍をなんとかしたい。そんなところだろ」


 そう言うかなめの表情はまるで面白いことがこれから起きるのだと言うように笑っていた。


「そんな、西園寺さん。笑うなんて内戦が起きるかもしれないのに笑うなんて不謹慎ですよ……でも『官派』の地殻変動って……僕も社会勉強が足りないと言われて甲武国の事を少しは勉強したんですよ。あそこの『官派』を牛耳ってるのは九条家……今の当主は女侯爵で左大臣の九条響子……確か西園寺さんとは女学校時代の同級生でしたよね?」


 誠は勉強した自分を褒めてくれと言うように得意げにかなめを見つめた。その表情にかなめはあきれ果てて大きなため息をついた。


「確かに先代の九条頼盛はまさに『官派』を牛耳る大立者だった。だが、『官派の乱』で敗戦の責任を取らされて自刃してそれを継いだのが分家も分家の九条の名を名乗ってるだけの貧乏公家の響子だ。ただ、九条家の看板は絶対だった。例え公家と名乗るのが恥ずかしいくらいのぼろ屋の一人娘でも他に九条の血を引く人間がほかに居なかったから響子が四大公家九条家の当主になった。あの国では貴族の位はそいつがいかに無能でも絶対的な意味を持つ。例え響子が『官派』の理想なんてまるで信じちゃいない人物でも『官派』をまとめる神輿として左大臣の位にまで押しあげてやれば『官派』の貴族主義の思想に共鳴して親父をいつか潰してくれると信じていたのが『官派』のおめでたい思考の持主達だ。でも実際は違った。この前の『殿上会』では『官派』の連中が絶対響子が拒絶してくれると踏んでいた憲法改正を含めての親父の要求を丸のみした。他にも普段はアイツは外務省に勤めてるんだが常日頃から外務省の職員として真面目に仕事をこなすばかりで政治的動きで『民派』をけん制するそぶりも見せない。そんな響子に連中は愛想をつかしたんだ」


 かなめはそう言うとタバコを吸いたい合図の様に口元に手をやった。


「しかし現実は変わって来た……西園寺はそう言いたいんだな」


 カウラは鋭い視線をかなめに投げた。


「そうだ。この前の『殿上会』これで親父が提出した憲法改正の素案にまったく反論しなかったのが止めだった。今や響子は『官派』の誰もが寄り付かない裏切り者だ。それを気遣った対立する『民派』の軍人達が逆に響子の御殿を頻繁に出入りしているくらいだ。甲武の意思決定機関を牛耳る甲武四大公家は『民派』の首魁である親父の娘のアタシ、『民派』にシンパシーを感じる日野家のかえでの過半数が『民派』で占められる。そこに『民派』の思想に近い思想を持つ響子が加わり、希望の中間派の麗子の馬鹿は馬鹿すぎて相手にならない。『官派』はもうすでに『殿上会』で主導権を失ったんだ」


 かなめはそう言って九条響子の失脚について語った。


「じゃあ、今、甲武の『官派』をまとめているのは誰なんです?当然いるでしょ?これまでお飾りの首領としてその響子さんを支えてきた人物が表に出てきたんじゃないですか?」


 誠はあてずっぽうでそう言ってみたがかなめの顔は珍しく誠に感心したように驚きの表情に変わった。


「オメエも成長したんだな。そうだ、これまで『官派』を後ろで操っていた男が出てきた。慎重にして老獪な男……島津時久陸軍元帥……食えない爺さんだよ」


 かなめはそう言うと時折彼女が見せる狩るべき得物を見つけた猟師の浮かべる残酷な笑みを浮かべた。

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