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第58話 百貨店に驚く甲武の女

「あれかい?あんなに高い建物……役所か何かじゃないのかい?それにしちゃあ派手だねえ……」


 お蔦は目の前に現れた三階建ての大きなマルヨのコンクリート造りのビルに少し引き気味にそう言った。


「こんなの東和じゃそれなりに栄えた街ならどこにでもある店だよ。別に珍しくもない光景さ。この街豊川は東都の周りじゃまったく個性のない田舎町なんだ。さあ、入るよ」


 レイチェルはマルヨの建物の隣の東和では珍しくないが甲武では絶対に有り得ない立体駐車場に興味をひかれているお蔦を連れてマルヨの自動ドアを抜けた。


「ドアが勝手に開いたよ……どういう仕組みになってるんだい?」


 お蔦はこれまで東和に来て自動ドアを何度か通過していたがその度にその仕組みが気になっていた。


「甲武じゃ都心部以外は電気なんかろくに通っちゃいないからね。あれは電気で動いてるのさ……電気の珍しい甲武じゃ滅多に見ない代物だろうけどね」


 レイチェルは説明するのも面倒くさいと言うようにそれだけ言うと午後の買い物客でにぎわうマルヨの店内に足を踏み入れた。


「呉服屋はどこにあるのかね……新さんに新しい着物を作ってあげないと……」


 お蔦の言葉にレイチェルはため息をついた。


「そんなもんこんな地方都市のスーパーにあると思ってるのかい?呉服屋なんてものが入ってるのはそれこそ東都の名門百貨店くらいのものさね。ここ東和の庶民は普段は洋服で生活している。そう言えば……アンタ下着を履いていないだろ?甲武の庶民が着物の下に何もつけないくらいの知識はアタシも知ってるんだよ」


 レイチェルは笑いかけるようにお蔦に向けてそう言った。


「下帯かい?あんなもの無粋な人間のつけるもんだよ。またアンタはアタシを無粋にしたいのかい?良い度胸じゃないのさ」


 お蔦がムキになっているのを見てレイチェルはお蔦にパンツを履かせることを諦めてとりあえず下着コーナーを抜け、そのまま春物の新作が並ぶ婦人服売り場にお蔦を導いた。


「こういう服が東和の最近の流行りなんだ……まあ、私はゲルパルト生まれだから東和の流行とかにはあまり関心は無いけどね」


 レイチェルはそう言って珍しそうに軽快な春服に見とれるお蔦に目をやった。


「そうかい……ずいぶんと肌の見える部分が多い派手な衣装じゃないのさ。東和の女はみんなうぶだって言うのはあれは嘘で結局そう言うことをしたいんだねえ、本心では」


 そんな含み笑いを浮かべるだけでお蔦は特に春服を手に取ることもしなかった。


「アンタは東和の洋服には関心が無いみたいだね。じゃあ、食べるものはどうなのかな。この下が食品売り場になっている。エスカレーターに乗るよ……乗れるかい?その草履で」


 レイチェルは呆れたようにそう言うとお蔦の手を引いてエスカレーターの広場に向った。


「馬鹿にするんじゃないよ。甲武にもエスカレーターのある百貨店くらいあるんだよ!しかし、地下かい……甲武の戦時中の避難壕を思い出すねえ。なんだって戦争の無い東和でそんなものを作るのさ」


 お蔦はそんなことを言いながらレイチェルにつられてエスカレーターで地下の食品売り場に向った。

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