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第49話 導かれた先は自分のすべてを知る店

「開いてるのかい?それにしてもこの時間だと言うのに客一人いないなんておかしな店じゃないのさ」


 お蔦はそう言いながら白いのれんをくぐり小さなうどん屋の中に入った。


 甲武の鏡都の田川宿での小料理屋の経験しかないお蔦には讃岐うどん店のようなその店に違和感を感じながらお蔦はそのまま席に着いた。


 大柄ででっぷりと太った店主はまるで興味が無いと言うようにうどんを茹でているだけでお蔦の方に目をやるそぶりも見せない。


「お客が来たんだよ!なんとか言ったらどうなのかい!客が来たんだ!挨拶くらいしな!」


 その不愛想に頭にきたお蔦は店主に向けてそう言い放った。


「はいはい、ただいま……」


 そう言って出てきたのはかっぽう着姿のお蔦からすれば『異人』にしか見えないすらりとした30前後のまるで活動写真に出てきそうな美しい金髪の白人女性だった。


「あれまあ、奇麗な異人さんだね。アンタが店を切り盛りしてるのかい?それならあんたも何とか言ってやんなよ。店主がこんなに不愛想じゃあこの店も潰れちゃうよ。アタシは甲武の鏡都で小料理屋をやってたんだ……客商売の基本は笑顔。そんな事も知らないなんて、本当に何を考えているのかねえ……」


 お蔦は金髪のかっぽう着の店員にそう愚痴った。


「ここは地球の讃岐うどんを真似た遼南うどんの店だ。客はまずカウンターでトレーを持って好みのてんぷらを取ってうどんの種類を言って注文をする。それがルールだ。それを知らねえ客は客じゃねえ。客じゃねえ相手にあいさつするほど俺は人間が出来てはいねえんだ」


 店主は苦々しげにそう言った。その言葉にお蔦は馬鹿にされた様に感じて立ち上がった。


「まあ、そんなに怒らないで下さいよ。うちの人が不愛想なのは昔からなんでね。甲武の人かい?じゃあうちの人と同じ国の産まれじゃないのさ。それより、アンタはお蔦さんだろ?」


 金髪の『異人さん』が流暢な日本語でそう言うのと自分の名前を知っていることに驚きながらお蔦は静かにうなずいた。


「まずは立って、あそこのトレーが積んである所まで行くんだよ」


 そう言って金髪の店員はお蔦を店の隅のトレーの積まれた場所まで案内した。


「そしてそこの皿を取って、その上にそこに揚げてあるある揚げ物を取るんだ。何が良いかい?今日はそうだねえ、この寒い日だ。カシワと芋、それに卵なんかがお勧めだよ」


 金髪の『異人』は笑顔でそう言ってお蔦の顔を覗き込んだ。


「それじゃあ、それを頼むよ」


 お蔦は日本文化を知らないはずの『異人』に日本風のうどんの頼み方をれきゅちゃーされることに少し不満を感じながらその指示に従っていた。


「それもそこにあるトング……なんて言ってもアンタには分からないんだろうね。そこにあるつまむ箸の大きいので自分で皿に乗せるんだ。それがこの店の流儀さ」


 店員はそう言うとお蔦にトングを持たせた。お蔦は恐々、鶏肉とサツマイモ、それに半熟卵を取りそのまま仏頂面を浮かべている店主の前に立った。


「鏡都から来たんだろ?ならかけがいい。昨日は隊長とあれだけヤッたんだから腹は空いてるはずだからな。大盛にしとくよ」


 店主はそう言うとうどんを茹で始めた。


 お蔦は自分の名前を知り、昨日の嵯峨との情事まで知っている店主の言葉に驚きながらも静かにうなずいた。

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