第47話 イベントが終わり日常が戻って来た
次の日、誠はいつも通りの時間に出勤すると好奇心から隊長室の少し開いた扉を覗き込んだ。
「誰だ?覗き込んでるのは……どうせ神前だろ?入れよ。遠慮しなくていいからさ」
そこにはいつもと変わらぬ顔の嵯峨が居るのが分かった。誠は言われるがままに隊長室に入った。
「昨日はお疲れさんだね。それにしてもいきなりお蔦の奴をお前さんが連れてきたときは心臓が止まるかと思ったよ。まあ感動の最下位もできたし、昨日は……ふっふっふっ……」
そう言って笑う嵯峨の顔はいつもと変わらぬどこか抜けたところのあるやたらと若く見える姿だった。いつもと違うところと言えば、いつもは乱れの目立つ髪がきっちり整えられていて、髭が奇麗に剃られて若く見える顔がさらに若く見えるくらいのものだった。
「隊長。いつもと変わりませんね。昨日はあんな時間から一日中抱き合ってたのに平気なんて、あなたは何者ですか?」
誠は20億の女を手に入れたことで浮かれて『駄目人間』の度合いに加速がついているだろう嵯峨を想像していたので少し拍子抜けした。
「なんで俺がそんな一日で変わるの?確かに人間は一日で変わることもある。でもお蔦さんと俺は昔一緒に暮らしてた仲だ。抱き合いながら朝まで二人で昔の事を話して……ああ、夜半からはお蔦さんの意識は飛んでたみたいだからどれだけ俺の話を聞いてたか分かんないけど」
朝から卑猥な話を平気でするところも嵯峨は昨日の嵯峨と何1つ変わるところは無かった。
「そんなあの時間から朝までって……どんな精力してるんですか?隊長は」
誠は半分呆れつつ嵯峨にそう言った。
「良いじゃないのさ、俺達身体の相性ばっちりだから。まあ、お蔦は良すぎて今頃部屋で伸びてるんじゃないかな」
またもやとんでもないことを童貞の誠に言いだす嵯峨に誠はあきれ果てた。その時隊長室の扉が開いた。
「おい!素人童貞!昨日はどうだった!腰が抜けたか!」
あからさまにいやらしい笑みを浮かべてそう叫んだのはかなめだった。その後ろではかなめを引き留められなかったことを謝るように頭を下げているかうらの姿がある。
「別に俺は寝不足なだけ。腰が抜けたのはお蔦。俺はごく普通。昨日、早退したじゃん。その分仕事が溜まってるの。だから俺はお仕事をしたいの。いい加減出て行ってくれるかな?」
嵯峨は迷惑そうにそう言うがかなめにはそんな気は毛頭ないようだった。
「そりゃあ凄いや。花街の花魁の腰を抜かすほどの絶倫ぶりとは……叔父貴、いっそのことAV男優にでもなった方がいいんじゃねえのか?有名になれるぞ」
かなめは相変わらず下卑た笑顔を浮かべて嵯峨を見つめた。
「確かにそうすると俺好みの熟女を抱けるけど……あの仕事もあの仕事で結構大変みたいだよ?人気になると人気女優とかとお仕事することになるでしょ?でもさあ、最近の若い子とは話が合わないし、これまでお蔦より良い女だった女優なんて俺知らないもん。それと仕事となると、好きでもない若いねーちゃんとか抱かなきゃいけないわけじゃん。俺は47歳なの。見た目はこんなだけど中身はオジサンなの。年相応のマダムと付き合いたいの。そう言う仕事も回してほしいと無理を言えるまでにはあの業界は相当な額勤めなきゃいけないみたいだよ。でも事実、お蔦はどう見ても俺から見たら娘にしか見えない……と言うかリアルの娘の茜の妹にしても年が離れすぎているようにしか見えないが……そこは16の時の俺に心を戻して何とか頑張ってみた訳だ。アイツと一緒に居ると昔の俺に戻れる。人間というものは本当に不思議なものだよ」
嵯峨は相変わらず変な趣向を披露しながらかなめにそう言い返した。
とりあえずお蔦闖入騒動は『特殊な部隊』内部では嵯峨がひたすら粉を巻いていた安城に振られたという事実以外は完全に終了を見たのだなと誠は確信した。