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第45話 嫉妬に狂う副隊長、静かに諦める女将

 昼から始まった『特殊な部隊』の宴会は混乱を極めた。


 いつもは酒に飲まれることの無い酒豪のちっちゃな副隊長のランはお気に入りの一升日本酒が入る『武蔵野』と名付けた杯を次々と傾け、部下達にも強制的にハイピッチに飲むことを背中で強制した。


「でも、今日のクバルカ中佐……普通じゃないわね。あんなクバルカ中佐を見たのは私は初めてだわ。これで何升め?ちょっと待ってね、開いた一升瓶を数えるから……一本、二本、三本……これで四升。あのちっちゃい身体のどこにそんな量の酒が入るのかしら?」


 昼から飲み始めて、日が西に傾く頃。女将の春子は誠とかなめとカウラとアメリアの座るテーブルに歩み寄ってきてそう尋ねてきた。


 ランは珍しく理性がぶっ飛んだ調子でいつも着ているやくざ風の柄の綿入れと着流しを脱いで胸と腹に巻いた晒に褌一丁と言う姿で背中に彫られた毘沙門天の刺青を見せびらかしながら彼女には頭の上がらない整備班長の島田と島田の彼女のサラに説教を続けていた。


「叔父貴に女が出来た。だから荒れてるんだろ……ランの姐御はあんななりだ。しかも永遠に成長は見込めない。そのくせ叔父貴には気がある。叔父貴は絶対にロリコンじゃないしむしろ熟女マニアを自認している。それを明らかに叔父貴のタイプの年増じゃない鳶に油揚げを持って行かれるように叔父貴をお持ち帰りされたんだ。面白いわけがねえ」


 いつものラム『レモンハート』を飲みながらかなめはそう言って苦笑いを浮かべた。そんなかなめの言葉に春子は少し衝撃を受けたように引きつった笑みを浮かべた。


「そう……そうよね、新さんくらいの人に惹かれる女の人が現れても何も不思議なことは無いわ。私も同じ気持ちだもの」


 春子のそう言う口調にはどこか陰があった。


「春子さん。春子さんの隊長の評価はずいぶんと高いのね……もしかして……隊長の事好きだったの?」


 アメリアは興味ありげに春子の方に目をやった。


「私は新さんの事は好きよ……でも新さんは私には届かない存在。甲武国の偉い貴族で軍のエリート。私みたいな中卒の元風俗嬢じゃ釣り合わないわ」


 そう言いながら春子はカウンターからグラスを持ってきてビールを注いだ。


「それなら今日来た女も釣り合わないことになるな。あの女は甲武の尋常小学校を出たらすぐに女郎屋に売られた貧農の娘だ。学歴で言ったらお蔦は小卒で女将は中卒だから女将の方が上だ。それに花街で身体を売っていたらしい。じゃあ、売春が禁止されている東和の市民である女将の方がどう見ても格上のように私には見えるのだが……」


 静かに烏龍茶を飲んでいたカウラはそう言って春子を見上げた。


「花街の太夫……しかもその番付で一番になった太夫はそんな女の中でも別格なんだ。名門貴族の奥方にもかつてそう言う経歴を持っている人間は数人いる。まず、身請けの金額がそんな金持ちの貴族でもなければ出せる額じゃねえ。安く見積もっても300万円……ああ、甲武円のレートを東和円に換算すると大体3億円が相場だな。そんな女を手に入れたんだ。叔父貴が浮かれないわけがねえ」


 かなめは静かにそう言った。


「3億円!凄い……でもそんな人身売買が普通に行われている甲武はやはりおかしいと思います」


 誠はかなめの出した金額に驚きながらも正直な感想を口にしていた。

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