第44話 『特殊な部隊』の嫉妬する人々
全員が『セックスをするために早退する』という非常識を通り越して職場放棄同然の自分の上司の行動をあっけに取られて見送っていた。
「こんなこと……許されるんですか?セックスするために早退するなんて……しかも部隊の隊長がですよ?おかしくありません?そんな話聞いたことが有りませんよ!」
誠は正直嵯峨の早退する姿に呆れていた。
「いまさら何言ってんだよ。叔父貴が駄目なのは昔っからだろ?オメエもこの半年何を見てたんだ?それにこれからはあの叔父貴の異常性欲をお蔦が受け止めてくれることで叔父貴や安い風俗店でもらって来る伝染病を持ち込むことが無くなるんだ。良いことじゃねえか」
かなめは完全に嵯峨の事を諦めたというようにそう言って笑っていた。
「まーあの駄目人間が身を固めてくれればアイツの世話をしているアタシとしては助かるんだ……アタシとしては……」
作り笑いを浮かべてそう言うランの表情はどこか寂しげだった。
「ランちゃん、それ本音?隊長を他の女に取られて嫉妬してるんじゃないの?正直に言いなさいよ……お姉さんがしっかり聞いてあげるから」
冷やかすような調子でアメリアはランに向けてそう言った。
「別に嫉妬なんかしてねーよ!アタシも安城と一緒だ!隊長はただのアタシの上司でちょっと頭の回転の速いだけの駄目な奴だ!確かにアイツには一生かかっても返せない恩が有るが……そんなことは関係ねー!アイツは駄目人間!エロい事が出来る女なら相手は誰でも良い最低の男なんだ!」
アメリアの冷やかしにランは真っ赤になって反論した。
「僕もこれで良かったと思うよ。義父上の並外れた性欲を満たせるのは花街の太夫くらいしかいないだろう。お蔦さん……ああ、今の名は清原蔦と言ったね。義父上の妻としてこれ以上最適な存在は無いと言える。茜お姉さま。いい加減その事実はお認めになった方が良いと僕は思うんだが」
一人、頭を抱えて黙り込んでいる茜に向けてかえではそう言って笑いかけた。
「お父様の再婚相手が普通の女性では務まらないことは私にも分かっておりますの……でもその現実を受け入れるのには私にも少し時間が必要なの……よろしくて?」
茜は明らかに結末が自分にとって最悪の状況に落ち込んだことに絶望していた。
「しかし、隊長だけが良い思いをするというのはつまらないな……クバルカ中佐。私から提案があるのですが……」
状況をいつもの無表情で見守っていたカウラが突然そんなことを言い出した。
「おう、ベルガー。聞こーじゃねーか」
ランは相変わらず面白くないと言う顔でカウラの言葉に応えた。
「隊長だけが堂々と職場放棄をするのは不平等です。どうせうちの部隊はすることも無いのですから午後はここに居る全員が半休を取って月島屋に飲みに行くと言うのはどうでしょうか?いい加減な隊長に対する当てつけのサボタージュくらいする権利は我々にもあると思うのですが?女将の春子さんからは昼飲みを始めたからぜひ来てくれと以前から言われていたので良い機会だと思うのです。こんな日に真面目に仕事をする気になどなれません」
カウラは平然と職場放棄を宣言した。
「カウラさん……それはあまりに無責任じゃ……」
誠は普段は真面目なカウラの一言に衝撃を受けていた。
「そうだな。叔父貴の野郎はその間に女とよろしくやってるんだ。アタシ等が酒を飲んで夜まで騒いで何が悪い!ランの姐御!ご決断を!」
かなめはすっかりサボる気満々でそう言ってランに目をやった。
「そうだな。あの馬鹿の話を散々聞かされてアタシも頭に来てる!仕事なんかできるか!昼になったら管理部以外のメンツは帰って良し!そしてここに居るメンツとそとで聞き耳を立てていた連中の中の有志で月島屋に乗り込む!お代は全部アタシのおごりだ!徹底的に飲むからな!中途半端で済ます気はねーから徹底的に昼から飲むからな!」
ランは完全に責任を放棄してそう言い放った。