第42話 置いてけぼりを食らった男
「あのー皆さん。俺の意見とかは何か聞いてくれないのかな?俺はこの事件の一方の当事者だよ……確かに俺の給料が俺の所に来るように配慮してくれたのはうれしいんだけど……それと俺がお蔦を好きなのも事実だけど……いきなり結婚で、家名を勝手に動かして、そんなことやれちゃうのは事実だけど……俺の意志は無視?俺の意志とは関係なくそんなことを決めて良いと思ってるの?俺の立場は何にも無しなんだ。勝手に物事決められると俺としてはまるっきり立場が無いんだけど」
女達のやり取りを黙って聞いていた嵯峨がようやく口を開いた。
「隊長、諦めろ。もうオメーは包囲されている。オメーがまだ安城に未練があるのは百も承知だが、所詮は縁のない話だったんだ。オメーには素人女は縁が無いということだ。そうして一生素人童貞として生きろ」
ランは戸惑う嵯峨に向けて死刑宣告をするようにそう言い放った。
「そうですよ、隊長。安城さんが隊長にまるで気の無い事は誰が見ても明らかだったんですもの。まあ、切れる同僚で、洞察力とかで見習うことが多い先輩、同じ司法局の実力行使部隊の隊長と言う関係。それが隊長と安城さんの関係の全てです!いい加減諦めてお蔦さんと結婚しなさい!」
今度はアメリアまでもが傷心の嵯峨の心に塩を塗りつけた。
「アメリア……そこまで言うか?普通。でもさあ、俺も男として押しかけ女房をそのまま素直に受け入れましたなんてのは粋じゃないと思うんだよ。もう少し時間をかけて……その間に再び心と身体の相性を確かめ合ってだね……ってその汚いものを見るような目……ちょっと傷つくんだけどな」
嵯峨は明らかに動揺しながらそう言って周りを見回した。
ランはその鋭い視線で嵯峨の覚悟を促していた。アメリアは冷ややかな目で安城に振られた嵯峨を嗤っていた。かなめは自分の配慮を無にするのかと嵯峨をにらみつけた。かえでとリンは自分達の功績を褒めて欲しいと期待の視線を送っていた。ひよこは相変わらずお蔦の手を握りながらまばゆい視線を嵯峨に投げた。アンは訳も分からず結婚という言葉の響きに惹かれて嵯峨を尊敬の目で見つめていた。
「あのー僕もいきなり今日来て今日結婚というのはいささか急すぎるような……」
誠はそう言ってはみたものの、全員の視線が自分に突き刺さるのを感じて口をつぐんだ。
「神前の言う通りだぞ!俺とお蔦さんが離れ離れになってからもう30年だ。もしかしたらそれぞれの心に行き違いがあるかも知れない!それを確かめるためにある程度の期間が必要だ!それは戦略的にも意味のある話だ!策士である俺が言うんだからこのことだけは間違いない!」
嵯峨は誠の何気ない一言がもたらした一瞬の隙を見逃さずそう言い放った。
「やっぱりお父様なんですね……ここまで来てもまだ逃げようとする。『駄目人間」はどこまで行っても『駄目人間』なんですね」
諦めていた茜は嵯峨の発言を聞いてさらに深いため息をついた。