第38話 空気を読まずに号泣する女
「うわーん!」
突然の号泣の声に一同は驚いたように突っ伏して泣き出したアメリアを見つめた。誠は我を忘れて感情に流されるように泣き出すアメリアを始めてみたので驚きに包まれた。
「おい、アメリア。どうしたんだ?腹でも痛いのか?」
話の間ずっと無表情だったカウラがアメリアの肩を叩いた。
「なんて良い話なの?これ、落語の長編の良い廓話になるわよ。色気有り、笑いあり、涙あり。そして今、ハッピーエンドでしょ?落ちとして最適じゃない!隊長!がちがちの娘さんやあの高嶺の花の安城さんや一向に振り向いてくれない春子さんの事なんて忘れてお蔦さんと結婚しちゃいなさい!これは最高の出会いと別れとすれ違いの物語だわ!しかもエロも有る!最高じゃないの!」
アメリアは我を忘れて畳みかけるように嵯峨にそう言った。
「僕としてもそうしてくれると嬉しいな。跡継ぎの問題はリンが排卵誘発剤を使用すれば問題ないという話だし、いい加減義父上が風俗通いでしかも時々病気を貰って来るとか言うのは正直僕の体面をかなり傷つけているんだ。あれにはたぶんここに居る全員が義父上に反省してもらいたいと思ってるよ。違うかな?」
かえでは嵯峨を人にらみするとそう言って笑っていた。
「そうです、私が赴任した時に梅毒の薬を処方していますよね。ちゃんとその時の担当医師としての私の言いつけは守ってますか?確かに今は完治していますが、次感染しても私は責任を取れません」
かえでもまたそう言って嵯峨に詰め寄った。そしてリンも性病の専門医として冷たい視線を嵯峨に投げていた。
「私は認めませんからね!お父様は自分一人の事すらまともに管理できない人間失格の存在です!ちゃんと自分の事は自分でできるようになってから結婚とかは考えてください!それに元女郎の娘だと呼ばれるのは私としては不愉快です!」
茜ははっきりとそう言って嵯峨をにらみつけた。
「おい、茜。それはアタシに対する嫌味か?アタシは非正規部隊の時任務で娼婦の真似事をしてた。オメエの従姉は元娼婦ってわけだ。現実を見ろよ。それとも何か?オメエはまだ白馬の王子様がいつか迎えに来ると信じてる脳みそお花畑思考の持主なのか?これだからお高く留まった高齢処女は嫌いなんだ」
かなめは茜に向けて冷やかすような視線を向けた。
「『駄目人間』が身を固める。いーんじゃねーのか?それにアタシが聞いた範囲じゃ『駄目人間』の性欲は普通の女じゃ対応不能なくらい凄いらしーからな。花街の太夫だったらどーにか受け止められるだろ」
ランは諦めたようにそう言って嵯峨を見つめた。
「僕は良い話だと思いますよ。二人とも好きあってたんでしょ?それが時を超えて結ばれる。それも二人とも不死人だから永遠に……」
それまで黙り込んで話を聞いていたアンがそうつぶやいた。
「隊長には責任を取る義務がある。神前。貴様もそう思うだろ?」
真顔でそうカウラが尋ねて来るので色恋沙汰をあまり理解していない誠は静かに頷いた。