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第37話 その後の二人

「いくら鍛えても強くなれない俺は自分の能力の限界を悟った。所詮俺は『最弱の法術師』なんだってね。そしてこんなところでいくら時間を潰していても、独裁者に苦しむ人が増えるだけだと考えるようになった。そして茜が9歳になった年に甲武を捨てて東和に移った。東和でランの主である独裁者がどんな馬鹿をしでかして自滅の道を歩むことになるかを見定めよう。その隙を突く機会を伺おうと考えたんだ。俺には確かに戦ってランに勝つ見込みは無いが、状況を読む力と『策』がある。そう自分に言い聞かせる事しか俺には出来なかった。当時の俺にはそのことしか頭に無かった……お蔦さん、すまないね」


 嵯峨は何時にない柔らかい笑顔でお蔦を見つめた。


「そうかい、男なんてみんなそんなもんだろ?アタシは一向に老けていかない自分の身体を不思議に思いながら店を切り盛りするのに必死だった。近づく男は居たよ……ただどれも新さんみたいな目はしていなかった。太夫時代に上客ばかり相手にしていたせいだろうかねえ……どの男に抱かれても思い出すのは新さんの事ばかり。そうするうちに男なんてどうでもよくなってきちゃってね。けっきょくあアタシには新さんだけ。心も身体もさ」


 そう言うとお蔦は遠くを見るような目で嵯峨を見た。


「東和に移って3年後。俺は当時の遼南帝国の反政府武装勢力の一つである遼南人民戦線の理論的指導者でかつての恩師だった人物の誘いを断れずに遼南に向った。ランを倒せなきゃあの独裁者はどうにもできねえことは分かっていたがもう待てなかった。ただ、俺はツイていた。俺の戦列に遼州人をこの星に導いた『女神』本人が加わったんだ……あの奇跡が無きゃ……俺はランに殺されていた。これは間違いない事実だ」


 嵯峨は諦めたような視線をランに送った。


「シャムと会ったのか?アイツは手紙では何も言ってこないけど……まーアイツにそんな文章力はねーだろーがな」


 皮肉を込めた笑みを浮かべてランは嵯峨に笑いかけた。


「ともかくあのナンバルゲニア・シャムラードと言う存在とその愛機であるシュツルム・パンツァー『クロームナイト』のおかげで俺はランを倒すことが出来た。その後も色々あってね。シャムはランに勝つための切り札だったんだ。それ以外の使い道は俺には手に余るとアイツをアイツの望み通りに昔からアイツが籠っていた山に帰し、その後も色々と悪だくみを企む馬鹿な軍閥の首領どもを血祭りにあげるか懐柔したりする方法で俺は戦いを続けて遼南を統一した。そっから先はあんま話したくねえ。そんなこんなで今はこの第三期『特殊な部隊』の隊長をしている訳だ」


 嵯峨は何かをごまかすように話を端折った後そう言ってタバコの煙を吐いた。


「アタシは嵯峨惟基と言う有能な軍人が遼南で暴れてると言う風の噂を聞いてね……もうアタシのことなんて忘れちまったに違いないと思い定めて店の切り盛りに集中したんだ。そうこうしているうちに年月が経って、十年前にニュース映画で遼南統一がなされたと聞いて……あの新さんならそのくらいのことはやってのけるだろうと自分のことのように喜んで……でも遼帝国は入国にものすごい手間がかかると聞いて会いに行くこともできずにいたんだ。それがこの前の『近藤事件』のニュース映画で司法局実働部隊の隊長を新さんがやっていて、金さえあれば入国が簡単な東和にその本部があると聞いて……店を処分して身一つで今ここにいるんだよ」


 そう言うお蔦の目には涙が浮かんでいた。

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