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第31話 相模屋での青春

「あの頃は俺も若かったからね。しかもお蔦さんもすっかり俺に岡惚れして俺が他の女郎に手を出すと文句を言うんだ。文句を言いたいのはこっちだよ。毎晩、客に抱かれてるのを知りながら俺はその間は他の女郎たちも客を取ってるから一人でこたつでミカン食ってんだよ……こっちの身にもなれってんだ。まあ、仕返しに俺も暇な女郎を見つけると抱いてたのは認めるけど」


 そう愚痴るように嵯峨は言った。


「そりゃあ、それが女郎のお務めだからねえ……でも他の男に抱かれながらもアタシは新さんの事しか考えていなかったよ。ときどきアレの最中に『新さん!』って叫んじゃって揉めたこともあったっけ」


 あっけらかんとお蔦はそう言った。


「お父様の暮らしは昔も今も変わりませんのね。私には理解しかねます!いかにお父様の性根が腐っているのかだけは良く分かりましたが」


 そう言いながら軽蔑の視線を浴びせて来る娘の茜に嵯峨は一瞥をくれた後話を続けた。


「茜、そんな目で見るなって。まあ、俺がこんな男なのは昔から。別に否定もしないけど娘からそんな目で見られると父親として情けなくなるよ。まあ、俺はプライドゼロで売ってるから別にどう手も良いっちゃどうでも良いことなんだけどね。それよりお前等、女郎屋ってのはいつも客でいっぱいだと思うだろ?しかし、当時は戦時色が強くてね。客は少なかったんだ。だから空いてる女郎が一杯いた。それを狙ってたのは貞やん。アイツも好きでね。人気の子が暇だと聞くとすぐにその部屋に行って……まあアイツは俺よりそう言うのしつこくないから女に遊ばれてるなんて感じだったけど……それがのちに『甲武の大百足』なんて地球軍から恐れられるトップエースに育つんだから世の中面白いよな」


 嵯峨はまたタバコに手を伸ばして火をつけた。


「へえ、あの『義の人』と呼ばれて堅物のイメージのある甲武軍人の鏡みたいに言われてる御仁がねえ……叔父貴はどうだったんだ?叔父貴の事だ。一日中女を追いかけまわしてたんだろ?」


 かなめはニヤニヤ笑いながら隣で顔を赤らめてうつむいているカウラと誠をしり目にそうつぶやいた。


「俺?俺は三日に一度しかお蔦さんが相手してくれないから他の女を追いかけまわしてたのは事実。だがね。俺くらいになると女の良しあしが分かってくるの。お蔦さんクラスの女は……お美代ちゃんくらいしか相模屋には居なかったかな……それで楼主に掛け合って次の年からは毎日お蔦さんを抱いてた。どうせ義父が金を出してるんだろ?ならアイツがほえ面かくぐらい自由にしてやろうって言う覚悟でね。あの払い、いくらになったんだろう?まあ、その分いま節約生活してるんだから文句は言えないよね。それより、酒とタバコで今でも贅沢三昧のかなめ坊には俺の事をどうこう言う資格は無いよ。分かってんの?その辺」


 嵯峨はそう言うと優しい視線をお蔦に向けた。


「あの日々は身体が壊れちまうかと思ったよ。アタシもそれが嬉しくってさ。身体が壊れてもいい。一緒に繋がっていたい。それしか頭が考えられなくなっていた。でも、さすが西園寺様の御威光だねえ……女郎は本来店からは出られないもんだが新さんはアタシが新さんの責めに耐えられないと分かると外に連れ出してくれるようになったんだ」


 お蔦は嬉しそうにそう言って嵯峨を見つめた。


「デートですか?どこ行ったんですか?」


 デートと縁のない童貞である誠はお蔦に向けてそう尋ねた。


「そうだねえ、芝居見学にお花見。特にアタシは少女歌劇が好きでねえ……新さんはあんまりお気に召さなかったみたいだけど。それにしても新さんの話が分かる方の娘さん……かえでさんと言ったかね。アンタ言われるだろ?少女歌劇の男役になったらトップを取れるって。アタシも新さんがいなかったらかえでさんを一目見ただけでコロッと行っちまうね。モテるだろ?特に女に」


 あまりのお蔦の迫力にいつもは余裕のかえでも戸惑いながらうなずいた。


「僕は良く女性から告白されて困っているんですよ。まあ、それを全員受け入れるのが僕の主義ですが。ああ、そう言えばこの部隊で僕に告白する女性が居ないのはなぜなんだろう?」


 かえでは金髪をかき上げながら前歯を光らせて決めポーズをした。


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