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第28話 『駄目人間』の悪友たち

「まあね、二人は確実だったんだ。アイツ等の秘密はバレたら即除籍になる程度の物だったからな。まずは最初の獲物は忠さん……かなめ坊もかえでも知ってるだろ?西園寺家に来ての俺の最初の……いや、俺の人生最初の友達だな。アイツは西園寺家の筆頭の被官の三男坊で身分から行っても俺には逆らえないんだが、俺はそんな身分なんて嫌いだった。でもアイツは本当にお人好しでね。俺みたいに性格の悪い友達でもちゃんと付き合ってくれる。良い奴だよ」


 嵯峨は遠くを見るような目をしながらそう言った。


「忠さんってアレだろ?甲武海軍第三艦隊提督赤松忠満中将……まあ、あの人は『西園寺家の大番頭』って呼ばれてる西園寺家の被官の筆頭格だからな。叔父貴のご学友として友達になれたんだろ?主君の言うことには被官は逆らえねえ。そのお人好しに付け込むなんざ、叔父貴は昔っから変わってねえんだな」


 西園寺家の内情は現党首であるかなめも知り尽くしているので納得したようにうなずいた。


「それにしても大物がいきなり出てくるのね、隊長の話には。『虎の子は虎』……第二次遼州大戦で連合艦隊の女司令として知られた赤松虎満の息子さんでしょ?そんな人と知り合い……やっぱり隊長は凄いのね」


 アメリアはあきれ果てたように嵯峨に眼をやった。


「まあ、お人好しでも童貞のアイツに女郎屋にいきなり来いなんて言っても戸惑うだろうけど、アイツには俺に逆らえない理由がもう一つあった。別に家来だから逆らえないとか言うわけじゃ無いよ。アイツは英語が苦手でね。俺がテストの度にカンニングペーパーを作ってやっていたんだ。だから高等予科を留年せずに卒業できた。当然それをバラされたら除籍は間違いないから俺には逆らえない。俺は語学は得意なの100か国語ほとんどネイティブレベルで喋れる。憲兵時代はそれで捕虜の尋問とかさせられてたわけ。色々便利だよ、語学は。神前は語学は苦手だったよな?今からでも遅くは無いよ」


「そんなことほっといてください!」


 自分の非道を棚に上げて誠をからかって来る嵯峨に頭にきて誠はそう叫んだ。


「隊長。それは家来だから逆らえないというよりも非道なような気がするんですが……どこか人間としての道を踏み外しているようにしか私には見えません」


 嵯峨の奇行に呆れ果てていたカウラが思わずツッコミを入れた。


「そりゃあ俺は目的の為には手段を選ばない男だもの。昔っから人の道なんて踏み外すことに何の躊躇も感じないんだ。それともう一人貞やん。まあ、『甲武の大百足』と言った方がパイロットであるお前さん達には分かりやすいかな……かえでは知ってるだろ?」


 嵯峨は義娘のかえでに向けてそう言った。


「はい、『甲武の大百足』と言えば甲武軍では知らないものはいません。第二次遼州大戦での甲武陸軍のエースパイロット安東出羽守貞盛……で、義父上は貞盛公のどんな弱みを握っていたのですか?」


 明らかに弱みを掴んでゆするのが嵯峨の特徴であることを見抜いていたかえではそう言って朗らかな笑みを浮かべた。


「アイツが苦手なのは数字全般。物理もだめ、化学もだめ。当然俺の頭が必要になってくるわけだ。アイツとは高等予科時代に喧嘩を吹っかけてきたから返り討ちにしてやってね。それ以来アイツは俺には逆らえない。プライドが高くて義理堅いのがアイツの性格でね、だから俺がお願いだと言えば喜んでついてくる。しかも、自分では『俺はもう童貞じゃ無いんだ!』とすでに女郎屋通いをしていることを自慢してた。そこに俺が女郎屋に住み込む話を持って行くんだもん。食いつかないわけがない」


 平然とそう言う嵯峨の顔は笑っていた。誠はひたすら嵯峨に関わるとろくなことが無いから友達が少なかったんじゃないかと邪推していた。


「最後の一人は一学……これはリンあたりが知ってるんじゃないかな?甲武海軍最強のエースにして夭折した濃州コローニーを領する武家貴族の名門斎藤家の若き当主にして天才日本画家……斎藤一学中佐……紅顔の美少年とはこのことというようなかっこいい男でね。それが気に入らないと士族連中が通う陸軍予科学校の連中に喧嘩を吹っかけられているところを俺と忠さんで助けたのを機に友達になった。アイツとは気が合った。俺もアイツも芸事が好きなんだ。アイツは絵が好き。俺は琵琶の稽古に夢中だった。それこそ暇があると『芸術とは何か』とか高尚な話をしていたんだよ……ってまたみんなで信じて無い目で俺を見る……そんなに俺が高尚な話をするのがおかしい?似合わない?そうだよ、俺は月3万円の男。最近は映画を見に行く金もない。東和の芸術家に知り合いは多いがそいつ等の個展やコンサートに行こうにも交通費が無い。だから、お前さん達にも俺のそう言う一面を見る機会が無かっただけなの。俺は文化人なの」


 嵯峨はまんべんなく話題を振ろうと今度はリンに顔を向けた。


「はい、私も女郎屋に居た頃に暇の慰みによく歌っていました……冥王星の戦いで散った悲劇の美青年斎藤一学……『青葉の筆』の歌は女郎たちの間に流行りましたから。『冥王星の戦敗れ討たれし甲武の公達哀れ……』。平敦盛に例えられた現代の悲劇の将。下々の者もその悲劇は語り継がれていましたから」


 リンは少し悲しげな顔をしてそう答えた。

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