第27話 大太刀周りと居残り
「でだ。その晩は朝まで……と言うか番頭が代金を取りに来るときもお蔦を抱いてたんだ。まあお蔦はもう体力的に限界で肩で息をしてたけどね」
嵯峨は得意げに話を続けた。
「『若旦那、お代は二千円になります』とか番頭はぬかしやがる。まあ、そんくらいになるなあとは俺も思ってたんだけどね。喘ぐこともできなくなってくたくたのお蔦の上で腰を振りながら。そうかい、じゃあ無いな。そう答えてやった」
卑猥な笑顔を浮かべる嵯峨に誠は改めて嵯峨は『駄目人間』なんだと思い直した。
「どこまでお盛んなんだよ叔父貴は。それで爺さんに金の無心にでも行ったのか?ひでえ不良息子だな」
かなめは呆れながらそうつぶやいた。
「うんにゃ。俺は最初から千円以上払うつもりは無かった。俺はここに居残ることを狙ってたからな。そしたら落語と現実は違うもんだねえ……番頭の野郎はつけ馬らしい屈強な男でお蔦を組み敷いてる俺を取り囲んだんだ。どうせ貴族のバカ息子だろ?腕の二三本は覚悟してもらうから親から金をとるとか言い出した」
嵯峨は得意げにそう言ってお蔦に眼をやった。お蔦は少し頬を赤らめながらまんざらでもない表情で嵯峨を見つめた。
「そん時、アタシの中からアレを引き抜くとその二十人を超えるつけ馬を一瞬のうちに全員叩きのめしまったんだよ、新さんは。本当に一瞬の出来事でアタシも着物を着る余裕すらなかったからねえ。あの見事な腕っぷし。一方的に自分の店のつけ馬が全裸の若造に張り倒されてるってのに番頭もその様子をすっかり見惚れてたくらいだ」
お蔦はそういって笑顔を浮かべた。
「で、番頭に言ってやったんだ。済まねえな、お前さんの店のつけ馬全部駄目にしちまった。その詫びだ。俺を代わりにつけ馬に雇え。いや、俺一人じゃ心もとないから仲間を呼ぶ。その仲間には手下もいる。こいつ等なんかよりよっぽど役に立つ。どうだ?ってね」
得意げに嵯峨はそう言うと吸い終わったタバコを灰皿に押し付けた。
「仲間?性格の悪い隊長に当時友達なんて居たんですか?」
誠は思わずそう言っていた。嵯峨は呆れたように誠を見つめた。
「あのなあ、性格が悪いは無いんじゃないの?まあ俺の性格が悪いのは自分でも良く分かってるから。でも、当時高等予科学校でくすぶってる俺に借りがあって逆らえない奴が二人とこういう店を教えてやろうと思っている友達が一人いたのは事実だ。高等予科学校は武家貴族の為の軍学校だ。だから連中も日頃から武術の訓練には怠りが無い奴だから腕は立つ。そんじょそこらの素人のつけ馬なんかよりよっぽど役に立つって番頭に行ったら、腕の折れたつけ馬一人を付けてその話は本当だろうなついて行けって言うことで話はまとまって俺は久しぶりに学校に行ったんだ。ああ、その前にまだやり足りなかったんでお蔦をもう1回押し倒してお楽しみにふけってからだったけどな」
恥ずかしげもなくそう言い放つ嵯峨に誠はただ呆れるばかりだった。
「ああ、あの時が一番幸せなまぐわいだったね。胎の中はもう新さんので一杯だっていうのに身体が自然にもっと欲しくなっちまって……」
「お蔦さん。昼間からそんな話はやめていただけません?耳障りです」
燃え上がるような口調で話し始めたお蔦を茜は強い調子で制した。