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第24話 誠のもっともな疑問

「でも……お蔦さんとか言いましたよね。最初から気になってたことなんですけど、なんで今うちに来たんですか?甲武の花魁が自由になるのってそんな30年もかかるんですか?でもそんなに経ったらおばさんになっちゃうじゃないですか?ああ、お蔦さんも隊長と同じで不老不死なんでしたね」


 誠はここで初めて思っていたことを口にした。一同も同じことを思っていたらしく視線をお蔦に向けた。


「そうさねえ……アタシは実はあるお方に年季が明ける前に身請けされててね……新さんも知ってる人だよ、そのお方は。ぜひ新さんの後妻になってくれって言われたんだ……でも、間が悪いって言うかなんと言うか……新さんとは会えなかった。これも運命かも知れないね」


 遠くを見るような目でお蔦は語り始めた。


「実はある事情で田川宿の相模屋から花街の大店、藤の屋に移って頼んだよ……そこで安女郎から華やかな花魁になり……そのお方のお引き立てで太夫になり……花魁番付の一番になった……新さん。そんな女を自分のモノにできるんだよ?ちょいとした自慢だろ?花街一の太夫だったんだよ。まあ、当時は戦時中で花街自体が風紀が乱れるとあまり客が多い時期じゃなかったのは事実だけど、それでもあの街で一番の女がアタシだった。それだけは間違いないんだ」


 お蔦はいたずらっぽい視線で嵯峨を見つめた。


「そのお方って……どうせ義兄(あにき)だろ?藤の屋はそれこそ殿上貴族でも無けりゃあ通えないような格式の店だ。そこの花魁の一番人気なんて買えるのは四大公家筆頭の当主だった義兄しかいない。思うにそれは親父がテロを食らって俺のかみさんが死んだ直後辺りじゃないのかな?義兄も俺に気を使って戦地で苦労してる俺に変える場所を用意するつもりだったんだろうな。そう言うところだけは義兄は気が利くからな」


 嵯峨は苦笑いを浮かべながらそう言った。


「親父もやるじゃねえか。お袋の目を盗んで女を買うとは……バレたら殺されるぞ。まず自分が味見して、おいしかったから義弟に押し付けて逃げる。親父はそう言う卑怯なところがあるからな。まあ納得できる話だ」


 かなめは呆れたようにそう言った。


「藤太姫。あなた様のお父様はそんな色狂いじゃないよ。あのお方は45まで遊び歩いてて妻も迎えなかった遊び慣れた粋な御仁だ。あの御仁は確かにアタシを呼んでも、指一本触れなかったねえ。『美人と酒を飲むのが俺は好きなんだ』と言って二人で新さんの昔話ばかり……そんなこんなで気に入られて身請けの話をまとめてくれてアタシは西園寺御所に入ったんだ」


 お蔦は遠い目をしてそう語った。


「そして長い戦争が終わった。新さんはすぐに戦争から帰ってくると思ってたけど新さんはアメリカ軍に処刑されたって聞いたんだ。アタシは泣いたね。もう生きてる意味は無いって」


 お蔦は遠い目をしてそう語った。


「でも、ある日、西園寺公はアタシに死んだはずの新さんが生きて帰って来たって言うんだよ。しかも今は独り身だからお前が後妻に入れって。今すぐ新三の後を追えってね……それで自アタシは御所の長屋を出た足で甲武の嵯峨様のお屋敷を訪ねたんだ」


 なぜか悲しい口調でお蔦はそう言った。


「でも、新さんはいなかった。なんでもそこの召使が言うにはこの国が嫌いだからと言って東和に行っちまったって言うんだよ。アタシはアタシの事まで嫌いになったのかと思って西園寺公から貰った金で田川宿に戻って小料理屋を始めたんだ。最初はそれこそ繁盛したもんだよ……花街の太夫の酒が飲めるってんでね。体目当ての男もいたそんなのは全部叩き出してやったよ。アタシには新さんしかいない……いつか東和に行って新さんと夫婦になる……それだけを夢見てね……」


 お蔦の顔に疲れた笑みが浮かんだ。


「でも東和も広いじゃないのさ。どこに新さんが居るかなんか分からない。そこでこの前の近藤とか言ういけ好かない奴の起こした反乱事件のニュース映画を見てね。そこに映ってるのは良い男に育った新さん。アタシは居てもたってもいられなくなった……新さんは『司法局実働部隊』と言うところの隊長さんをしている……それを知って店を畳んだアタシは身一つで東和に来たんだ。なじみの客とかにあいさつするのに時間がかかってこんなに遅れちまったけど……新さん。今も一人なんだろ?その春子とか言う東和女郎とアタシとどっちを選ぶんだい?」


 お蔦は詰め寄るような口調で嵯峨に向けてそう言った。

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