第23話 嵯峨の女遍歴
「自業自得とはこのことですわ……いい気味ですわね、お父様。ご自分のこれまでいかにだらしない生活を送って来たかということを鏡を機会に反省して生き直すのがよろしくてよ。『人は何度でも生き直せる』それがお父様の座右の銘ですわよね。お蔦さんと一緒に爛れた一生を生き直すにはちょうど言い機会なんじゃなくて?」
茜はそう言って冷ややかな笑いを嵯峨に向けた。
そんな中一人怒っているのがお蔦だった。
「なんだい!あの女!アタシが正直に新さんの良さを語って、まして正妻の地位まで譲ってやろうってのにあの態度!あれだね、東和は愛の無い国なんて呼ばれてるそうだけどまさにその典型例みたいな女だよ!人を見た目だけで判断する最低の女だよ!清潔感?そんなもんは風呂に入って、ひげを剃って、着物を着換えれば済む話じゃないのさ!そんなことも分からないからあの女も一生独身なんだよ!良かったね!新さん。あんな女と付き合ったら人生終わりだよ。新さんは何でもできる自由人なんだ。誰も新さんを縛ることが出来ない。そしてどこでも新さんは輝ける。そんな事も分からない女なんか忘れちまいな!アタシが忘れさせてみせるよ!」
お蔦の怒りはとどまるところを知らなかった。
「隊長の気が多いのは昔からなのか……それなら月島屋の女将はどうだろう?」
ぼんやりとした調子でそう言ったのがカウラだったので誠は驚いて彼女の無表情な顔を見つめた。
「春子さん?ああ、俺も何度もアタックしてるけど全部断られてるから。遼南内戦に行く前に寝たのが最後。あとは音沙汰無し。俺は金が無いからあの店の敷居は跨げないし」
嵯峨はそう言ってため息をつくがその言葉をかなめは聞き逃さなかった。
「おい、叔父貴。やっぱり女将とは寝てたんだな?だと思ったよ。で?なんで今は振られ続けてるんだ?理由はなんだ?花街の花魁を虜にできるテクニシャンなんだろ?東和の風俗嬢なんていちころですぐにでもヒモになれるんじゃねえのか?あれか?春子さんも不潔な男は嫌いだってところか?確かに月島屋はいつでもきれいにしてるし、春子さんの着物の趣味もパリッとして清潔感にあふれてるもんな。今の叔父貴と大違いだ」
冷やかすようにかなめはそう言って嵯峨に生暖かい視線を送った。
「そんなの俺が知るかよ……あれじゃない?小夏ちゃんに気を使って俺みたいに教育上良くない男を遠ざけてるとかいうところなんじゃないの?別に俺は気にしないけど……まあ年頃の娘を持ったことが有る俺としてもそこら辺の事は気を使ってるのよ。わかる?」
嵯峨は自棄になったようにそう言ってため息をついた。
「なんだよ、新さん。他にも女が居るんじゃないか……あんなケツの穴の小さい女より東和女郎の方がよっぽど新さんの良さを分かってるみたいじゃないか。で、西園寺さんとやら。その春子さんて人はどんな人なんだい?あんな安城とか言う永久処女とは違って心の広いお人なんだろうねえ……」
お蔦はこんどはかなめに向けて歩み寄った。その圧に負けて珍しくかなめは狼狽えたような表情を浮かべた。
「そうかい、甲武の女郎は東和の風俗嬢を東和女郎と言うのか。まあ、昔非合法の風俗店で身体を売ってたんだそうだ。そん時に叔父貴がそれを告発して春子さんを合法風俗店に移らせたのが出会いらしいな。それから風俗嬢を辞めた後は焼鳥屋を始めて、風俗街で店をやってたが今はここ豊川で『月島屋』って言う店を出してる。中三の娘が一人いるな……生意気な奴。確かに春子さんも年の頃は30代後半で叔父貴の守備範囲だし。和服が似合ういい女って点も叔父貴好みと言えなくも無いが……春子さんが叔父貴をどう思ってるかまではアタシも知らねえ。あの調子だと安城少佐みたいに嫌ってるって訳じゃねえみたいだけど、好きなのか?と聞かれるとたぶん答えられないんじゃないの?春子さんも。あの人も遼州人だ。恋愛に対しては奥手で不器用なんだ。叔父貴は遼州人の例外。同じように考えてるアンタは間違ってるよ」
かなめはそう言うとタバコを取り出して目の前の灰皿にてをやった。