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第21話 『駄目人間』と花魁は無粋と笑った

「おいおい、かえで。かってに人を赤ちゃん製造機に仕立てるんじゃねえよ。それにだ、こういうことはお蔦さん達の承諾が……」


 嵯峨は頭を掻きながらお蔦に眼をやった。


「そうだねえ、いつかは新さんの子は欲しいとは思うけどそんな急にはい産んでくださいなんて言われるのは癪だね。それにアタシは新さんと愛し合うためにこんな東和くんだりまで来たんだ。百年?良いじゃないか。待ってやろうじゃないか。その間好きなだけ二人で楽しめる。それも悪くないねえ……永遠の命。永遠の若さ。甲武の貴族連中だっていくら金を持ってても手に入らないんだ。それが手に入った。そしてそれを埋める男も手に入った。これ以上の幸せは無いよ」


 お蔦はそう言うとうっとりした顔で嵯峨を見つめた。


「かえで。それにこいつ平民だろ?叔父貴は今でも一代公爵だから結婚する時に妻に名字が要るだろ?その名字はどうするんだよ。うちの西もそうだが甲武の平民には名字がねえ。だから貴族との結婚は出来ねえ……あれか?妾にしろってことか?」


 かなめはとんとん拍子で話を進める妹に不快感を隠さずにそう言った。


「その点はご心配なく。僕もいくつか中級士族の家名を預かっている。それを再興する形で名字を名乗ればいい。そうすればお蔦さん。あなたが一番美しいから義父上の妻になっていただきたい。別にそんなに構える必要は無いよ。前の戦争で一族のほとんどが戦死して絶家になった士族の家名は沢山いるからね、義父上のような立派な一代公爵の奥方には美人でいてもらわなくては僕の美学に反するんだ。その点あなたは最高に僕の望みをかなえてくれている。素敵なことだと思うよ」


 かえでは平然とそう言ってのけた。


「日野様……ご配慮ありがたいと言いたいところだけど、あんたの考え、ちょっと無粋じゃないかね?アタシ等は甲武の粋を体現している女郎だよ。そんなすぐ結婚だなんて……それにアタシ等はそんな新さんの妻になりたくてここに居るんじゃないのさ。アタシ等は新さんを見守れればいい……時々身体を温めあう関係になれればいい……そう思って甲武から出てきたんだよ!もう少し考えな!」


 お蔦はぴしゃりとかえでの申し出に言い返した。


「そうだぞ!かえでは色ごとに関しては焦りすぎだ。それより、お蔦さん。君は俺が相模屋を出た後、花街の大店で太夫になっていたって言うじゃないの。それを俺が妻に向える……俺としては大歓迎だがそりゃあ話が急すぎるってもんだ。俺は甲武の粋を体現してお蔦さんに出会ったんだ。しばらくはあの頃を思い出して過ごしたい……そんなこともあってね」


 嵯峨は良い顔をしてそう言った。


「どうせ安城少佐に嫌われるのが嫌なだけなんでしょ?お父様。この三人が東和に来た時点で安城少佐の事は諦めた方がよろしくてよ。あの人は貞操観念に厳しい遼州人です。愛人がいるお父様に心を許すことなど万に一つも有り得ません!」


 茜は厭味ったらしくそう言って顔を背けた。


「なんだい、新さんには好きな人が出来たのかい?いいよ、アタシ等は所詮日陰者だもんね。その安城さんとやらと幸せになっとくれ。ただ、時々アタシ等を慰み者にしてくれればいい……安城さんとやらも恋を分かる御仁だったらきっとアタシ等の生き方を分かってくれる……なんと言っても新さんの思いを寄せるお方なんだもの。そこの茜とか言う娘と違ってケツの穴の小さい事は言わないと思うよ」


 お蔦はそう言って茜をにらみつけた。どこまでもお蔦と茜は相性が悪い。それだけはいくら女心が分からない誠にも明らかに分かる唯一の事だった。

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