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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『駄目人間』の青春と初めてのデート  作者: 橋本 直
第四十六章 デジャブー

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206/206

第206話 知らないところで父になっていた男

「もしかして……あなたが誠君?やっぱり、誠君ね!かえで様が言っていたようにとんでもないイケメンじゃない。まるで繁華街のホストでも務まるわね。かえで様をあれだけ惚れさせるなんて……かえで様の事をこれだけ思っている私よりもその心を掴んでいるなんて罪なことだと思わないの?」


 女はサングラスを取ると誠に向けて鋭い口調でそう言ってきた。


 その女の顔に誠は見覚えがあった。まるで女優のような整った面差し。いや、これは間違いなくスターの態度だ。誠はかえでが都内のセレブと付き合っていることは知っていたのでそんな一人なんだろうと思いつつ、その見たことのある顔の持主の名前を思い出そうとした。


「失礼ですが、氷上さんですね……お会いできるなんて光栄です!テレビでいつも見ています!なんでも引退されるとか……これからは見られなくなっちゃうんですね。残念です。僕、ファンなんですよ!」


 嬉しそうに誠を押しのけて氷上に握手を求めたのは意外にもそう言うことにはあまり興味の無さそうな西だった。


「そう、ありがとう。でも私はあそこでやるべきことはやり切ったから。いまでは悔いはないわ。それより、このお腹の子供の為にこれからは生きる。そう決めたの。かえで様も応援してくれるって言ってたし……」


 氷上はそう言うとコートの前を開けた。膨らみかけた腹が彼女が確実に妊娠していることを誠にも意識させ、その女氷上洋子の子供の父親が誰かと言うことを嫌でも思い出した。


「それの遺伝子上の父親って……もしかして僕ですか?」


 誠は恐る恐るそう尋ねた。


「そうよ、この子の父親はあなた。なんでもあなた、童貞らしいわね。かえで様はあなたの子供を欲しがってたわよ。だから私が代わりに生んであげることにしたの。ちなみに女の子。名前はあなたが決めてね。一応、父親なんだから。でも……私はあなたの事を何も知らない……それって少し不平等なことだと思わない?」


 いかにも演技は女優として知られた氷上君子のころころ変わる表情に誠は振り回された。


「あのー。僕はあまりドラマは見ないのであなたの事は僕もあまり知らないんですけど」


 誠は正直に戸惑いながらそう答えた。


「そう、じゃあこれから知り合いましょうよ。どうせあなたは公務員なんでしょ?仕事くらいサボってもここは『特殊な部隊』だから問題ないってかえで様が言ってたわ。タクシーを待たせてあるから、一緒に食事でもしません?そして、二人の将来について語り合いましょう」


 氷上君子は一方的にそう言うと誠の腕を掴んだ。


「そんな無茶苦茶ですよ!これは僕の意志とは何も関係ないところで起きた出来事なんです!僕には関係ありません!」


 誠は動揺していた。童貞でありながら父親である。その残酷な事実を受け止めきれないでいた。


「そんな無責任なことを言う訳?かえで様の話では誠君はもっと責任感のある男性だって聞いていたわよ。ははーん。急なことで戸惑っているのね。お茶でも飲んでゆっくりすればきっと落ち着くわよ。さあ、行きましょう!」


 氷上君子は誠の手を引いて宿直室を出ようとした。


「よかったですね、神前さん。スターとできちゃった婚ですか?まるで隊長みたいですね」


「お二人ともお幸せに」


 西とアンはまるで誠を助ける様子は無かった。


 誠は美女に手を引かれながら彼女の腹の中に居る自分の意志とは関係の無いところで出来た自分の娘のことを思いながらこれから自分がどんな運命をたどることになるのかひたすら悩みながら彼女の言われるままにタクシーの後部座席に押し込まれた。



                                            了

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