第205話 休まる場所もない日常
「急な宿直がこんなにありがたいと感じたことは無いよ。うちの寮に女性が増えるたびに僕の人権がどんどん無くなっていく。一体僕はどこまで落ちればいいんだろう?まあ今でもすでに女性用大人のおもちゃレベルの存在に落ちてるんだけどね」
誠は出勤して来る隊員達に手を振りながらそんなことを考えていた。
昨日の女達のバトルの後、興奮で一睡もできなかった誠が機動部隊の詰め所で転寝していた時にまた整備班長の島田が急病人が出たので宿直を頼むと誠とアンに声をかけてきたときは誠は狂喜乱舞船勢いだった。
そのまま夕方まで勤務してそしてそのまま宿直に入る。今日も島田に二人の他に指名されたのはあの時と同じく西とアンだった。
ご機嫌にゲートの上げ下げを担当している誠に仕事のすべてを任せて西とアンは携帯ゲームに興じていた。
「ああ、いい日だな……でも地球人のモテ男はどうやって暮らしてるのかな?まあ、あんな性格破綻者の女子ばかりに好かれるなんてことは滅多にない事だから……僕だけがモテるようになっても不幸。所詮は僕は『モテない宇宙人』の遼州人なんだな。モテるようになってもなにも良いことが無かった。これだったら前のモテない時の方がマシだ」
誠は独り言を言いながらさすがに迷惑をかけたことを気まずく思っているのか無言で誠の前を通り過ぎていったカウラの『スカイラインGTR』を見送り、かえでのリンが運転する高級乗用車も見送った。
「おい、西、アン。ゲームばっかりしてないで少しは仕事をしろよ。それにもうそろそろ始業時間だぞ、門を閉めるの手伝えよな」
誠はこたつに入ったっきりの西とアンにそう声をかけた。
そしてふと振り返るとゲートの所にタクシーが止まるのを見つけて誠はまるでデジャブーを見たような気分になった。
タクシーからはおしゃれな毛皮のコートを着たサングラスのすらりとした女性がおりて、タクシーの運転手と話をしていた。
「なんだか見たような光景だな。でも何だろう。あんなお金持ちそうな人がうちに用が有るなんて。ああ、かえでさんの関係者か。あの人は都内のセレブとかに友達が多いと聞くからな……まあ、どうせ修羅場を見ることになるのは確実だけど」
誠は嫌な予感を感じながら近づいてくる女性がまるで女優のような面差しをした美女であることに気付いてつばを飲み込んだ。
「すいません、ここに日野かえで少佐と言う方が務めていると聞いているんですけど」
サングラスの女はそう言うと誠に話しかけてきた。その意外な訪問者の姿が目に入ったのか西とアンも興味を駆られたようでそのまま携帯ゲーム機を置いて誠の居るゲート操作入り口に近づいて来た。
「はい、勤務していますけど。うちは一応武装警察なんで関係者以外立ち入り禁止なんです」
誠はこれ以上面倒ごとに巻き込まれるのは御免だとばかりにつっけんどんにそう返した。




