第201話 グダグダの中での帰宅とリンの参戦宣言
嵯峨のハーレム宣言に一同のやる気がそがれたことで誠達は『月島屋』を出ることにした。
「今日はあまり飲んでいないようだね。僕は少し飲み過ぎてしまった」
帰りのかえでの高級車の中で誠の肩に頭を乗せて目をつぶりながらかえではそうつぶやいた。
後天的遺伝子操作で金色に染めた髪が誠の顔を撫でた。その美しい肌はうっすらと紅を帯びて誠の目をくぎ付けにした。
「ああ、僕達はプラトニックな関係だからこれ以上は駄目だよ。僕のクバルカ中佐に対する体面が立たない」
そっとかえでの腿に手を伸ばそうとした誠をかえでは笑顔で咎めた。
「でも、いつまでもこんな関係を続けていたら僕の精神が壊れちゃいますよ」
正直、かなめ、カウラ、アメリア、かえでにせまられる日々は童貞の誠にとっては地獄のように感じられていた。
『特殊な部隊』に来るまで、誠に必要もないのに声をかけて来る女子は皆無だった。そもそも、遼州人はあまり男女で会話をしない。それぞれ相手にされないのを知っているのでそんな無駄なことをするという発想が遼州人には無かった。
かなめ、カウラ、アメリア、かえでには地球人の血が流れている。誠はこれまで地球人と言うものは怖くて攻撃的な戦闘人種だと教えられて、その恐怖におびえながら生きる典型的な東和国民だった。
そんな誠をこの四人の地球人の血を引く女子達は激しく奪い合っている。
誠はただこの現状に指をくわえて見ている事しか出来ない。
『これもモテない宇宙人である遼州人として産まれてしまった僕の運命なのかもしれない。童貞は卒業できるかもしれないがそのあと待っているのは女性用大人のおもちゃとしての一生……モテるようになるたびにだんだん僕の待遇って悪くなってるような気がするんだけど』
隣で寝息を立てかけているかえでを見ながら誠はそんなことを考えていた。
「誠様。かえで様はお休みのようです……ですからひとこと言わせていただきます」
運転していたリンが誠に向けてそう言ってきた。
「渡辺大尉。なんでしょうか?」
誠は滅多に自分からは口を開かないリンの言葉に驚きながらそう答えた。
「誠様の争奪戦。このリンも参加させていただきます。確かに誠様がかえで様と結ばれれば私も誠様の子をなすために結ばれることになるのは決まっている事なのですが、私にも意地と言うものが有ります。私もかえで様のおかげで侯爵の位を賜り、官位も『弾正尹』をいただいております。所領も少なからず持っております。ですが、私はこの程度で満足する安い女ではありません。かえで様から誠様を奪い、自分だけのものにする……そして渡辺家を武家貴族筆頭の名門に育て上げる。それが私の夢。私の野望です。かえで様もあの暴力サイボーグに奪われるより私に誠様を奪われるなら納得されるでしょう」
急な誠争奪戦へのリンの参戦宣言に誠は『女難』という言葉の意味を改めて知ることになった。




