第181話 メイド達に触れることを禁じるオーナーは厳しくそう言った
「なんだか僕の話ばかりして申し訳ないね。それじゃあ、この新しい寮の仲間を紹介しよう。僕とリンの顔は隊でもよく見かけているだろうが、僕の使用人達と君達が顔を合わせるのは初めてだろうからね」
かえでは相変わらずの笑顔で隣に立つ30代に届くか届かないかと言う長身の眼鏡をかけた美しいメイドに目を向けた。
「高橋銀と申します……爵位は男爵をかえで様より賜りました……これからは寮母の長として皆さんのお世話をさせていただきます。お見知りおきを」
メイドの放った爵位と言う言葉に寮生はどよめいた。
「ああ、僕の使用人は全て爵位を持っているよ。僕は忠誠を誓うモノにはそれにふさわしい身分と待遇を与えることをモットーとしているんだ。彼女達には給金の他に僕の荘園をいくつか分けてあげている。僕に尽くしてくれる人間にはふさわしい待遇を与える。上に立つものとしては当然の事なんじゃないかな?ねえ、お姉さま?お姉さまは自分に尽くしてくれる誠君にどんな爵位と荘園を与えたのかな?」
明らかに嫌味と分かるかえでの言葉にかなめの手が懐の愛銃XDM40に伸びるのを誠がなんとか阻止した。
「ここでは寮母長として寮母三名と料理人を取り仕切るようかえで様から命じられております。どうかよろしくお願いします」
上品に首を垂れる姿に会場から拍手が自然と沸き起こった。続いてそのとなりの柔らかい母性を感じる胸の大きなメイドが一歩進み出た。
「小林京と申します。爵位は子爵になります。不束者ですがどうかよろしく……」
これも慣れた調子で頭を下げる姿に会場から拍手が起きる。
「鈴木しまです!子爵です!おっちょこちょいなんで迷惑かけるかもしれませんがよろしく」
こちらは小柄な二十歳に満たないようなかわいらしいメイドがこれまでの二人と違い慌てて頭を下げた。
そして一歩悠然と足を踏み出したのはいかにもシェフと言った風格を讃えた二十代中盤と思わせる目つきの鋭い美女だった。
「佐藤熊、爵位は男爵。東都の銀座のフレンチで修業して一人前になってかえで様に呼ばれたんだ。専門はフランス料理だが、そんなもんはアンタ等の口には合わないだろうしね。それにどうやらこの寮には食事当番と言う制度があるらしいじゃないのさ。だったら、その時にしっかりアタシが指導してあげるよ。ここを首になっても立派な料理人として生きていけるだけの技術をアタシが教えてあげよう。感謝しな」
その横柄な態度にこれまで有った拍手は一切起きなかった。
「さあ、これで顔見世は済んだ。それと一つ忠告しておこう」
笑顔のかえでの表情が再び殺意のこもった冷たいものに変化した。
「この四人……それと僕とリン。計六人に触れることは君達には許されていない。薄汚い男などは僕達の性欲を満たす道具に過ぎないんだ。僕は誠君の為だけの存在で、その関係はプラトニックであるべきだと思って生きることを決めたんだ。だから誠君以外の寮生の男が僕達に触れることは今後一切禁止する。もしこれを破るようならこの寮を出て行ってもらう。以上だ」
冷たくそう言い放つとすぐに社交辞令の笑顔を浮かべてかえでは食堂を出て行った。
「ああ、皆さん。今日は佐藤と高橋達が特製のビーフシチューを作りましたのでご堪能ください。明日からは寮生の世話で高橋達は忙しいでしょうから今まで通り食事当番の方に佐藤の補佐をお願いします」
そう言い残すといつもの無表情を寮生たちの脳裏に焼き付けてリンも去っていった。
「なんだったんだ……これからどうなるんだ……」
事を見守っていた誠の心にはただ不安しか残らなかった。




