第18話 嵯峨茜出生の秘密
「おい、茜。そりゃないんじゃないの?それにだ。お前さんがこの世に生を受けたのはお蔦とお蔦の店の女郎たちのおかげだよ?いわば第二の母親みたいなもんだ。そこんところを考えてくれないかな?お蔦と俺が出会わなければ恐らくお前さんはこの世に居なかった。この事実だけは間違いないんだ」
嵯峨は冷酷な表情で自分を見つめて来る娘の茜にそう言い放った。
「お父様……ついに色ボケが過ぎておかしくなったんですわね。私の母はエリーゼ・シュトロンベルグ・嵯峨。他の誰でもありませんわ!」
茜は強い調子でそう言い切った。
「そのエリーゼが問題なんだよ。アイツは『社交界の華』なんて鏡都で呼ばれてそれはそれは男にモテる女だった……と言うか男無しでは生きていけない淫蕩な女だったアイツは朝と午前中と午後と夕方と夜で別の男と寝るような女だった。そんな女だったんだよ、お前さんの母親は」
嵯峨ははっきりとそう言い切った。
「お父様。お母様の男癖の悪さは否定しません。それと私の出生がどう関係ありますの?それにそんなことは自慢にはなりません。そんな母を反面教師にして私は清く正しく生きています!」
茜は少し怯んだようにそう言い返した。
「アイツはね。常にセックスフレンドが二桁いるほどの女だったんだ。俺とあった時点で男を千人食ったと自慢してた。社交界で顔をちょっと出して気に入った男を見つけると即お持ち帰り。それでセックスが下手だと分かるとすぐにポイ。そんな女だったんだ。典型的な『悪女』って奴。引っかかった俺も俺なんだけどさ」
嵯峨の言葉に茜は顔を赤らめてうつむいた。
「そんな中でも俺は一番セックスが上手かった。アイツは本当に俺に抱かれるのが好きでね。お前さんを身ごもったあたりでは他の男には目もくれずに俺を求めて来るんだ。結果としてお前さんが生まれた」
嵯峨は恥じることなく胸を張って堂々とそう言い切った。
「叔父貴、エロ自慢か?その割にはきっちり叔父貴が出征した後にはエリーゼ叔母さんは間男作ってよろしくやってたらしいじゃねえか。そっちの方が叔父貴よりセックスが上手かったんじゃねえのか?」
かなめは得意げな嵯峨に向けて冷やかすようにそう言った。嵯峨は咳ばらいをすると改めて茜を見つめた。
「たぶんエリーゼは俺の劣化版としてその間男と付き合ってたんじゃないかな。アイツは自分と付き合った千人を超える男の中で俺が一番いいって口癖のように言ってたから。アイツは本当に一日でも男無しでは生きられない女だった。そんな女さえも虜にするテクニックを教えてくれたのがお蔦と相模屋の女郎たち。本当にお蔦さんには色々と教わったもんだよ」
嵯峨は言ってることがめちゃくちゃな割に良い顔をして天井を見上げた。
「そうさね。新さんは16でうちの店に来たんだが、そん時は激しいだけで女を責める勘所を掴んじゃいなかった。だから、アタシ達が身体で教えてやったのさ。でも、新さんは物覚えが良いから3か月も経つとこっちが気持ちよくなっちまってねえ……新さんより上手い男なんてたぶんこの世には居ないね。ああ、新さんのあの手練手管を思い出すと身体の芯が熱くなるよ」
お蔦はうっとりした表情で嵯峨を見つめた。
「ほら見ろ。俺がエリーゼを落とせたのはお蔦さん達のおかげなんだ。だから茜。お前はそのおかげでこの世に生を受けたんだ!感謝しろよ!ついでに俺の給料!いい加減に全部没収ってのもいい加減止めてくれ!お蔦を迎えるとなると俺のボロアパートでは男の面子が立たねえんだ。なあ……自分がこの世に生を受けた感謝のつもりで……そこんところを……ね?」
嵯峨は急にしおらしくなって娘の茜に頭を下げた。




