第177話 敵の情勢を『策士』は分析した
「今回も恐らくカーンの爺さんは『ハド』に本格的にうちをマークした方が良いと助言したんだろうね。そしてこれまでうちに生ぬるい対応しかしてこなかった北川と桐野は更迭された……いや、桐野は残るんじゃないかな?あの男は殺し以外の能は無いし、殺した女を犯す変態趣味を止められるわけが無いから。その点、北川には脳みそがあるからほかにいくらでも使い道がある。だから別任務を与えてうち担当から外した……あれじゃん、年度末も近いから連中も人事異動でもしたんでしょ?」
嵯峨はいつもの緩い表情に切り替えながらタバコをくゆらせた。
「オメーは本当に役人意識が骨身にまで染みついてるんだな。そうなると今度は『法術武装隊』と桐野孫四郎か……どっちも話の通じる相手じゃねーな。辛い戦いになるぞ」
ランは緊張を込めた口調でそう言うと拳を握りしめた。
「そうなるねえ、ただ『ハド』が娘のカラを送りこんで来たのはうち対策だけじゃないと思うんだ。遼帝国では軍人は対外交渉訓練を受けさせられる。一般企業で言うところのコミュニケーション能力開発講座みたいなもんかな?カラも『法術武装隊』と言う遼帝国の軍人だったわけだからその訓練は受けてる訳だ」
タバコの煙を天井に吹くと嵯峨はニヤリと笑った。
「何が言いてーんだ?『廃帝ハド』のコミュニケーションスキル講座の講師にカラが任命されたとでもふざけたことを言い出したらぶん殴るからな」
ランは鋭い目つきで嵯峨をにらみつける。
「別に冗談で言ってるわけじゃ無いよ。東和の公安からマークされてる指名手配犯の北川じゃ東和の企業様方は受け入れてくれないでしょ?役所も同じ。北川が近づいたと同時に警備員に手配書を確認されてそのまま警察に連れていかれることになる。その点、東和での犯罪歴のないカラならどこへ行ってもフリーパスだ。『法術武装隊』は存在自体が抹消された存在だ。カラの存在もその時点でこの星の上には無いことになっている。東和警察はカラの事はまるで知らないだろうからね。北川なんかよりはよっぽど話の通じないヤバい女だって言うのに」
嵯峨はそう言ってニヤリと笑った。
「この東和で本格的に企業や役所にシンパを増やそうってわけか……最初は交渉で、それがだめなら部下の『法術武装隊』で脅しをかける……より厄介な展開だな。パードパワーによる攻撃はいくらでも防ぎようがある。でも人脈やコネクションを利用したソフトパワーで責められたらうちは弱い。特にうちの弱点は予算だ。東和や甲武の出資が途絶えることになればうちは兵糧攻めで戦いたくても戦えなくなる」
嵯峨の言葉の真意を察したランは苦笑いを浮かべた。
「そうなのよ……一応、俺の方から秀美さんにはカラの手配書を作成するように頼んでおくけど、東和警察の石頭は東和の法律には何一つ触れていないカラの手配には二の足を踏むだろうね。あの女が手配書に乗るようなことをするようになった時にはこの国の存在が消えていて東和警察も必要なくなっているかもしれないって言うのに」
皮肉な笑みを浮かべて嵯峨はそう言った。
「分かった。とりあえず連中の動き方が変わる以上、法術特捜の補助メンバーの人選を考え直す必要がありそーだな。それとうちの小隊の構成……これも考え直す時期かもしれねーな」
ランはそう言うと嵯峨に背を向け隊長室を出て行った。




