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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『駄目人間』の青春と初めてのデート  作者: 橋本 直
第三十九章 情事と嵐の予感

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第175話 情事の後の隊長室

 昼休みが終わったのを見計らってランは隊長室に足を向けた。


 隊長室の中からはとりあえずお蔦の嬌声は聞こえなかった。それを確認するとランはドアをノックした。


『開いてるよ!』


 嵯峨の満足げな声が聞こえてきたのを確認してランは隊長室に入った。


「クバルカ中佐、本当にごめんね……どうしても新さんの事を思うと身体が耐えきれなくってさあ……でも……昼間っからってのも燃えるもんだねえ」


 着物の袖を直しながらお蔦はそう言ってランに妖艶な笑みを投げかけてきた。


「それはごちそうさま。じゃあ、仕事の話が有るんだ」


 口数少なくランはお蔦に向けてそう言った。


「じゃあね!新さん!今夜も楽しみにしてるよ!」


 お蔦はそう言うと空になった風呂敷包みを手に隊長室を出て行った。


「昼休みの延長って出来ないのかな……俺は金が無い時はソープでは延長はしたことが無いけど」


 相変わらずふざけた話をタバコを吸いながら嵯峨は口にした。


「そんな話はどうでもいーんだ。アタシの精神年齢を考えろ。オメーは本当に社会人失格の『駄目人間』だな」


 ランはいらいらしながらそうつぶやいた。


「話は変わるけどさ、お蔦がしてる際に言うにはね、あの秀美さん。俺を諦めていないみたいなんだ!なんでも今週の土曜にお蔦と三人でこの千要まで来てくれて一緒にホテルで食事をしないかって!しかも部屋まで取ってくれてるって言うんだぜ!お蔦もフランス料理を食べられるって言うんですっかりご機嫌みたいだし、そのあとホテルの部屋で三人で何をするのか……って決まってるよね!一緒に食事なんてもう5年ぶりだし、それこそ……」


 嵯峨は完全にランの存在を無視するかのように饒舌に話し始めた。


「そりゃあ、茜の奴がそう仕組んだんだろ?自分の帝位継承権を安城少佐の子供に譲るから何とかあの『駄目な』父親を更生させてくれって。お蔦とエロい事ばかりしてたらオメエの『駄目人間』度はさらに悪化する。だから歯止めをかけるために安城少佐を引っ張り込んだ。そんなところじゃねーのか?」


 ランは完全に嵯峨の性生活には関心が無いと言うようにそう言った。


「でもなあ、サイボーグの性的快楽って生身の人間の数千倍だって聞くよ?俺は花街一の花魁を虜にしたうえでも満足できない男だよ?そのテクニックに……秀美さん耐えられるかな?俺無しには生きられない身体になっちゃったりして!」


 浮かれ気分の嵯峨にランはひたすら大きなため息をついた。


「よかったな。皇帝陛下。オメエが作った法律では帝室の人間は何人でも妻や夫を迎えて良いことになってるからな。安城少佐が第一夫人、お蔦は第二夫人か?」


 皮肉を込めてランはそう言った。


「俺はそんな順番なんてつけないの。それより、俺は面倒だから皇帝を早く辞めたいんだ。だから子供を早く作る必要がある。奥の手を使えば茜をすぐにでも後釜に据えられるんだが、茜じゃあのアンリの野郎は抜け目ないから恐らく互角に渡り合えないし、お蔦が子を産めるようになるのは百年後とか言うじゃん。そうなると秀美さんと……あの愛する秀美さんの子供なら皇帝の位を譲ってあげてもいい。でも問題は俺のこの隊長職の任期だよ……あと三年残ってるんだよね。三年勤めあげて、秀美さんにも寿退社してもらって、そして一年待って子供が生まれるのが四年後。そしてそいつが一人前になるのに十五年。十九年後か……それだけ皇帝やらなきゃなんねえのか……いやだなあ……俺向いて無いんだよ、皇帝なんかに。確かに皇帝としての仕事が出来るのは事実だよ。それは認める。欽定憲法も作った、官僚制も全部俺が制定した。あそこの均田制で民が飢えない制度を作ったのも俺だ。でもねえ……あそこの飯。朝、昼、晩と満漢全席が出るんだ。俺脂っこい料理は苦手なの。だから飯は作るのやめさせて食べ慣れたカップ麺を食ってた。そしたら家臣たちが怒るんだよ。なんで皇帝自ら質素倹約に勤めて怒られなきゃいけないの?あの国は豊かじゃ無いんだよ。アンリの奴は地下に金がいくらでも眠ってるんだからあの国はいくらでも豊かになれると言うが……そんな豊かさに俺は興味が無いから」


 嵯峨はそれまでの浮かれた表情を憂鬱の色に染めながらそうつぶやいた。

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