第174話 敵は『ハド』だけでは無いという事実
ランの言葉に誠達は安堵の表情を浮かべたが、そのことがランの怒りに火をつけた。
「おい、テメー等。確かに『廃帝ハド』は強敵だ。でもうちは何時から『廃帝ハド』対策の為だけの専属の『対廃帝ハド排除組織』になったんだ?分かってねーな!うちは遼州同盟加盟国の軍隊じゃ政治問題になりかねない、それでいて重武装が必要とされる地域での活動が求められている『武装警察』なんだよ!アタシ等の敵は『廃帝ハド』だけじゃねーんだ!来年度も数件もうすでに出動の予定が組まれてる。そこでオメー等の一人でも欠けてみろ?『ハド』が狙ってるのはそーゆー事態だ!そうしてうちが消耗し自滅するのを待つ。不死人であり、敵が疲弊することを待つことをなんとも考えない『廃帝ハド』にとってはうちがそんな作戦で自滅していくのをニヤニヤしながら見つめている余裕が有る訳だ。そんな連中の思惑に乗らないためにはまずは訓練だ!体力トレーニングだ!そして戦術を学べ!勝手にくたばりやがったらアタシが地獄までついて行ってもう一回殺してやるからな!」
いつもの説教モードでランは誠達にそう叫んだ。
「なんとも面倒な話だねえ……確かにこの部屋、二つの小隊しかない割に広すぎるもんな。アタシが準備委員会に居た時は第四小隊まで拡張して運用艦も『ふさ』の他にもう一隻確保するとか言ってたけど……」
愚痴るかなめに向けてランは必殺の台詞を吐いた。
「司法局にはそんな予算はねー!そんな夢みたいな話はもう忘れろ!この部屋が広いのは西園寺が暴れてモノを壊してもとりあえず置いておくスペースを確保するためだと考えを変えろ!」
この決まり文句を吐かれてしまえば誠達にはどうすることもできない。とりあえず誠達は自分の席に戻ろうとした。
その時昼休みのチャイムが鳴った。
「お昼よ!みんな元気!」
そのチャイムを待ち構えていたかのようにアメリアが機動部隊の詰め所に弁当を持って現れた。
「おい、部長自ら昼に入る前に弁当を確保して良いのか?運航部はそんなに暇なのか?」
怒りに任せてかなめはそう叫んだ。
「確かに暇ねえ……昨日の襲撃もうちの部にとっては完全に他人事だし。それより、隊長室の前を通る時は気を付けた方が良いわよ。あのお蔦さんの変な声がずっとしてるんだもの。隊長も昼間っから何を考えてるのかしら……ああ、あのかえでちゃんを養女に迎えるくらいだから仕方ないわよね」
アメリアは明るくそう言うと誠とかなめ、かうらに弁当を配った。
「叔父貴め……茜の言う通りお蔦の奴がここに来るのは今日が最後なんだろうな……毎日来られらこっちもたまったもんじゃねえぞ」
弁当の蓋を開けながらかなめはそう言って自然と誠を見つめた。
「あのー、僕が何か?」
誠は箸を利き手の左手に持つと早速チキン南蛮に箸を伸ばした。
「そうよねえ、せっかく誠ちゃんとエッチなことをする機会を失って甲武一のお姫様はご機嫌斜めなんですものね。あんな声を年中聞かされるなんて考えたら……そのうち本当に誠ちゃんに実力行使に出ちゃうかも」
アメリアは明るくそう言いながらおしんこを口に運んだ。
「西園寺が……認めない。貴様が神前と結ばれるなどとは私は絶対に認めないからな」
誰にも聞こえていないつもりか、カウラの白米を食べながらの独り言は誠達には完全に丸聞こえだった。




