第173話 『汗血馬の騎手』の守り
「ただ、これまでの二つのケースとは決定的に違うところがアタシ等には有るんだ。だからカラもそう簡単にはうちを潰しには来ない。とりあえず今回のあいさつも本当にあいさつ程度。自分がアタシ等を敵と二審指揮していることを知らせれば奴にとっては十分だったんだ」
恐怖に震える誠にランは笑顔でそう言って見せた。
「この司法局実働部隊の副隊長はアタシだ。『汗血馬の騎手』と呼ばれた『人類最強』のアタシが副隊長をしていることは連中も知っている。前王朝末期にアタシが目覚め、その圧倒的な力を見せたことは連中も知っている。当然、これまでのように簡単にかたがつくとは連中も考えていねーだろう。そして隊長の存在だ。あの『駄目人間』。女は……まあ、お蔦と暮らすようになるからこれまでみたいに格安風俗で変な病気を貰って来ることはねーだろうがその話は置いておいて、あの嵯峨惟基と言う遼南内戦をたぐいまれなるパイロットの腕と戦闘指揮官としての指揮能力、そして味方にすら恐れられる奇策を次々に展開して敵を翻弄した隊長を相手にしてこれまでのやり方が通用すると考えているほどカラと言う女も間抜けじゃねーだろ?アタシと隊長が仕切る部隊。これまでの無能なテロ組織相手の力任せのやり方は通用しねーぐらいの常識ぐらいあるだろ」
ランは安心しろと言うように笑顔でそう言った。
「希望的観測と言ってしまえばそれまでだが第二派攻撃はずいぶん先の話になるだろーな。連中の兵は少ない。貴重な戦力を無茶な勝負をかけて消耗するほど馬鹿じゃねー。とりあえず使い捨ての駒を使った挨拶はするがそれは『お前たちは敵だ』と言う警告以上の意味はねーだろーな。カラにすればそれで十分てところだろ。それにアイツ等もアタシ等と一緒でアタシ等だけを相手にしているほど暇じゃねーだろーからな。『廃帝ハド』は確実に組織の拡大に力を注いでいる。連中には戦闘だけが任務として与えられているとは考えられねー。連中はこの東和で各所にパイプを作り、それを利用してじりじりとアタシ等を追い詰めるつもりだ。まーそっちの方は隊長と安城さんで何とかしてもらう予定だがな」
腕組みして自信ありげに笑う『ちっちゃな英雄』の顔を見て誠は安堵感を感じた。
「確かに希望的観測だな。今回はあのうどん屋の亭主の通報が無ければそれなりの被害もうちには出ていた。第二派攻撃……本当にねえのか?」
かなめは念を押すようにランに尋ねた。
「そこはそれ、情報戦と言う奴でね。『ハド』のシンパはすでにこの社会の隅々まで浸透している。司法局本局にも『ハド』のシンパは居る。隊長もそいつの見当はついている。情報戦じゃあ隊長や安城は『ハド』の敵じゃねえ。その辺は安心しておけ」
ランの言葉にかなめは唖然とした顔を浮かべた後副隊長の机を思い切り叩いた。
「じゃあなんでそいつをとっ捕まえない!そいつを捕まえて『ハド』に関する情報を……」
かなめがそこまで行ったところでランは笑いながらかなめの口を押えた。
「西園寺、オメエは本当に甘ちゃんだな。たしかにうちの情報は一部はバレる。しかし、それ以上にそいつに嘘の情報を掴ませて連中を混乱させる。それが隊長の方針だ。今回、寮に日野主従が住みこむことは連中も知っている。だが、そこに嘘の情報を混ぜたら?例えばリンや日野の使用人たちが全員神前並みの『干渉空間』と『光の剣』の使い手だという情報が連中の耳に届いたら連中はどう思う?それが事実か確認できるまで動くに動けねーだろ?それにそれを事実かどうか確認する手段は連中にはねー。なんと言ってもカラと互角にやりあえる日野が近くにいつもいるわけだからな。カラの部下の中途半端な法術師じゃ日野に返り討ちに会って終わりだ。情報を取るも何もできないただの無駄足に終わる。貴重な使える戦力をそんなことの為に無駄にするほど連中も馬鹿じゃねーだろ。それに今回の襲撃でうちの整備班の連中も奴等の訓練された兵士達を上回る練度を持った兵士だと嫌でも分かっただろう。連中はその歪んだ主張ゆえに庇護してくれる国家なんてこの宇宙には一つもねー。だから自分達だけでアタシ等を始末しねーといけねえんだ。そうなると石橋をたたいて渡る戦術をとって、うちが出動に次ぐ出動を重ねて出来るだけ戦力の消耗を避けつつうちが疲弊するのを待つくらいじゃねーのか?連中に出来ることは」
ランは赤軽い笑顔を浮かべて誠達にそう言った。




