第172話 『法術武装隊』の脅威
「そうだ。どちらもこれまで一般的だった『パイロキネシスト』を使った自爆攻撃や不死人を使った波状攻撃から始まり、それ以外の法術の存在に気付いて法術の研究を独自にやっていた組織だ。それまで使い捨てにしていたパイロキネシストを火力の中心に据えて干渉空間や飛行術、瞬間転移などで敵を翻弄するやり口。遼帝国の州軍の法術師達も連中が動き出すとかなり翻弄されたらしーや」
ランは苦笑いを浮かべつつそう言った。
「第二派攻撃の段階でどちらの組織も組織を維持していくのが困難なほどのダメージを受けていた。しかし、カラは容赦しなかった。相手に立ち直る隙も与えず攻撃を連続して行った。アイツは即座に自分直下の訓練された兵であり法術師である『法術武装隊』本体を派遣した。もうすでに相手には抵抗する力なんて無いのによ。アイツには容赦の文字はねー。ただ非情な破壊欲求以外には存在しねーんだ」
大きくため息をつくランにかなめは鋭い目つきでちっちゃな上司をにらみつける。
「近隣住民までも巻き込んでの大虐殺。カラと言う女に『容赦』という言葉はねえ、あの200年前国民の半数を笑いながら虐殺した『廃帝ハド』の娘だ……親のやってることと同じことをやる娘か……性格が似てるんだな」
かなめの言葉に誠は息を飲んだ。
一人っ子だと信じていた自分に父の違う姉がいる。そのことを聞いた時はなぜか少しうれしかった。だがその喜びはすでに絶望に変わっていた。
その誠の優しい母の産んだ姉は極悪非道なテロリストとして今度は弟である自分を狙っている。ランとかなめの話を総合すると姉には容赦と言う文字はない。恐らくは母に愛されて育った自分への憎しみだけで誠の前に立ちはだかるだろう。
そう想像すると誠は鳥肌が立ってきた。
「なんだ、神前。顔色が悪いぞ……自分の姉が凶悪な殺人鬼。その事実を受け入れられないのか……人は生まれで決まるのは人生のごく一部だ。育った環境でその人間の性格は決まる。おそらく貴様の母に捨てられてからのリョウ・カラの人生はあまりにも過酷だったんだろう。元々『ハド』の血の気の多い性格を引き継いだうえにそれが彼女を殺人鬼に変えた。不老不死の力とたぐいまれなる法術師の素質に恵まれ、『非道の帝王』の教育を受け、その父も封じられ豊かな暮らしからも見捨てられた。当然、すべてを恨みあの『廃帝ハド』を復活させて遼帝国を再び暗黒の時代に引き戻すことで自分を捨てた母親に復讐しようとしたんだろうな」
カウラは誠をなだめるようにそう言った。
「リョウ・カラ……姉さん……いずれ斃すべき敵……そして姉さんが率いる『法術武装隊』……」
誠の心は恐怖に支配されていた。ただ、圧倒的な力で襲い来る二つの波に自分や仲間達が無常に飲まれていく様を想像して誠は冷や汗をかいた。




