第170話 隠された嵯峨の正体
「ラーナ。しばらくは我慢してちょうだい。これは遼帝国皇帝遼献の皇女としての私からのお願いです。今は私達には倒すべき敵がいる。そしてそれを倒すにはお父様には遼帝国の翡翠の玉座は都合が悪い場所なの。今のあの『駄目人間』の収容所であるここ司法今日実働部隊の隊長の椅子にお父様が居なければあの『廃帝ハド』はこの宇宙を『力ある者だけが生き残る世界』に変えてしまう……それまでは辛抱してちょうだい。いつまでもあの私欲に目が眩んだ地球人達の自由にさせておくほどお父様は冷たいお方ではありませんよ」
茜は優しくラーナの頭を撫でた。
「皇女様……」
顔を上げたラーナはそう言うと茜の胸に飛び込んで大声で泣きだした。
「おい、神前、カウラ、それとご感動のところ悪いがラーナも。このことは他言無用だ。叔父貴が遼帝国皇帝だとバレると叔父貴の動きに制約が出来る。それに遼帝国の帝室典範に遼帝国の皇帝の顔を知って良いのは皇帝の女と一部の高級官僚だけと決まっている。だから今まで行ったことは忘れろとは言わねえが口にはするな」
かなめは厳しい口調で誠とカウラに向けてそう言った。その表情は真剣だった。
「ああ、分かっている。隊長は今まで通りの『駄目人間』で通せと言うのだろ?我々が任務を遂行するにはその方が都合が良いのは事実だしな」
カウラは密かな笑みを浮かべてそう返した。
「でも、西園寺さん。僕達の対応した事件も『皇帝陛下の意向である!』の一言で解決した事多くありません?偉い人が隊長をやっている部隊と言うことなら相手も気を使ってくれると思うんですけど」
そんな誠の言葉にかなめは心底呆れたような顔をした。
「遼帝国は所詮貧しい農業国なんだ。確かにあの地下には金の価値を鉛以下に落すだけの埋蔵量の金が眠っている。でも、叔父貴はそれは地球を脅す道具にしか使うつもりはねえ。どうせ本気で掘り始めたら価値が落ちると分かってるものを掘って何が楽しいよ。それよりその上で小麦でも作ってうどんを食ってる方がよっぽどいいぞ。アタシも金なら山ほど持ってるが金は食えねえからな」
かなめはそう言って笑っていた。
「そうっすね。隊長はこれまで通り『特殊な部隊』の『駄目人間』隊長。そう思うことにします。アタシはこのことは忘れます。でも警部、さっきのアタシの臣民としての言葉は忘れないでくださいね」
ラーナは涙をぬぐうと席に戻り、そう言って仕事を再開した。
「さあて、アタシ等も戻るか。これで叔父貴を昼間っから発情させる花街の花魁対策もまとまったわけだし、昼間でしごとすんぞ!」
かなめはそう言うと法術特捜の執務室のドアに向った。誠とカウラもその後に続いて法術特捜の執務室を後にした。




