第17話 地球人の女性が『法術師』になる可能性
「おう、ひよこよ。良いところに来たな……ってなんだよその目は?お前さんも西に嘘を吹き込まれて俺のこと軽蔑してるんだ……アイツも真面目な奴だと思っていたが意外とこういうゴシップが好きなんだな。人の不幸は蜜の味ってところか?でも、俺はこれを幸福に変えてみせる。というか既に変わってるんだけどね。ひよこが真実を語ってくれればここに居る誰もが俺を祝福して涙を流すことだろう」
相変わらずひょうひょうとしている嵯峨を見ながらひよこが嫌々席に着いた。
「隊長!最初に言っておきますが、愛は尊いものです!それをおもちゃにしている甲武の売春制度を私は認めません!愛は純粋!唯一無二!決して弄んではいけない貴重な宝なんですよ!いくら性に穢れた地球人の国の甲武で育ったからと言ってやって良いことと悪いことが有ります!」
珍しく厳しい言葉でひよこはそう言った。
「そうかもしれないけどさ。あの国で貧しい女が生きていくためには仕方がない制度なんだよ。それにお蔦が俺の所に来たのはその唯一無二で純粋な愛のなせる技なんだ。その愛のおかげでこうしてはるばる甲武から俺に会いたい一心でこの東和まで来てくれる……良い話じゃないの。それに女郎には年季と言って決まった期間が有る訳。どう考えてもお蔦は年季が開けてる。つまり、今のお蔦は売春婦じゃない。お蔦がここに来たのは俺に対する純粋な愛だ。そう言い切って間違いない」
余裕の笑みを浮かべながら嵯峨は平然とそう言い放った。
「それはそうですけど……やっぱり私には……それに本当に愛なんですか?私はいつもみたいに隊長に騙されているんじゃないかと疑っています」
戸惑うひよこに嵯峨は笑いかけた。
「まあぶっちゃけた話を言うと愛の尊さなんてものよりも俺の立場の微妙さが今問題になってるの。ひよこ、地球人の女を不死人である俺が抱くとどうなる?まずそれをここに居る全員に説明してあげてくれ。そうすれば俺の公金横領の容疑は晴れる。まずそれからお願いできないかな?」
嵯峨は唐突にとんでもないことを口走った。
「それは……愛が芽生えるんじゃないですか?」
ひよこの頭はポエムを愛するポエム脳だった。嵯峨はあきれ果てたようにため息をつくと再びひよこを見つめた。
「全く天然ぽわぽわ娘は話になんねえな。じゃあ、もっと生々しい話をするわ。地球人の女の子宮に不死人の男の精液が大量に、かつ日常的に頻繁に接触するとどういう現象が起きる?これなら俺の言いたいことが良く分かるだろ?お前さんも医療の現場に携わる専門家だ。いわば科学者のはしくれだ。愛とか恋とかそう言う話じゃなくて純粋に科学的見地からの言葉を俺は聞きたいの」
この場に居るかえでとリン以外の全員の軽蔑の視線が嵯峨に突き立てられた。
「隊長……やっぱり……この人とはそう言う関係だったんですね」
「お父様。見損ないました」
カウラと茜の声が静かな部屋に響いた。
「随分と生々しい表現ですが、それはあくまで医療関係者、法術研究者としての意見を求めてるんですよね?お答えしますとその場合その女性がかなりの高確率で不死人になります……と言うことはそこの和服の女の人達も……不死人になった地球人?隊長とこの女の人はそう言う関係にあったんですか?やっぱり不潔じゃないですか!」
ひよこはようやく気付いたように泣きはらしていた眼を拭っているお蔦に眼をやった。
「別に不潔も何も女郎の仕事はそう言う仕事なんだもん仕方がないじゃん。つまりそう言うこと。だから俺が16の時に俺の精液がお蔦の子宮に大量に長期間にわたって注がれ続けた。そう言うことをしてからお蔦は年を取って無いの。俺は田川宿の女郎屋の相模屋を18で出たからその時からお蔦とは会っていない。つまり、今回の『武悪』の導入の交渉に関してもお蔦は関係ない。というか女郎屋の年季は30になると明けるからお蔦は女郎ですらない。普通の俺を慕う美しい永遠の美貌を誇る女性と言うわけ。俺の今の幸せな状況。理解してくれたかな?皆さん」
嵯峨はそう言って勝ち誇ったような表情で周りを見回した。
「お父様。自慢のつもりですか?お父様がおモテになるのはいいですがそれとお父様の状況は何も変わりませんよ。要するに昔の悪事を今暴露しただけ。先延ばしにした問題のツケを今お父様は払わされている。そのようにしか私には見えませんわ」
茜は得意げな父を見ながら冷たくそう言い放った。




