表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/186

第163話 望まれなかった姉の存在

「『廃帝ハド』の治世。あの男は力さえあれば何でもできると信じた。力のない遼州人を搾取し、力のある者だけが権力を握る国を作り上げようとした。そして力のある子を後の残し、遼帝国をさらに強力な国にしようとしたんだ。そしてとりあえず自分の子を残すために力のある女性である神前のお袋さんに目を付けた。そして無理やり自分の妻とし子をなした。それがのちの『法術武装隊』の隊長、リョウ・カラだ」


 そう言って嵯峨はモニターに30代半ばと思われる人を嘲笑するような笑みを浮かべた髪の長い美女の写真を写した。


「ただ、『ハド』の思惑通りには事は進まなかった。力のある者達は力におぼれて暴走し、暴力と権力が支配する地上の地獄が実現した。治安は最低にまで悪化し、王朝内部も疑心暗鬼で『ハド』の見ていないところでは好き勝手やって良いというような風潮が蔓延した。神前のお袋さんはこの女を産むとそんな乱れた王宮を抜け出し剣の修業を始めた。ほとんど無法状態だった当時の遼帝国じゃあそのくらい簡単なことだったんだ。そんな事も分からない『ハド』は愚かだとしか俺には言えないね。実は神前のお袋さんは実はバツ二でね。最初の夫は『光の剣』の使い手だった。その精を受けたあの人にはそれが使えた。そしてその他にも俺が使える切り札の空間破砕と言う法術を切り札として使えた。これを切り札にして暴虐の君主にして自分を犯した『ハド』を倒そうとしたんだ。もうその頃には遼帝国は荒廃し国の体をなしていなかった。もうそれ以外にあの国を救う手段はなかったんだ」


 嵯峨はそう言うとタバコを取り出し火をつけた。かえでが明らかにその様子に嫌そうな顔をする。


「そして準備が整うとわざと自分の居場所を『ハド』に知らせて奴を思惑通りの遼帝国山間部の人気のない谷に引き寄せた。『ハド』はまんまと神前のお袋さんの罠にかかった。力に自信がある者ほど相手を見くびり自滅を遂げる。その典型例だな。自分より弱いと決めてかかっていた神前のお袋さんにその渓谷の洞窟まで誘い出された『ハド』とその『ハド』の力だけを恐れて従っているだけの家臣たちは神前のお袋さんの繰り出す『空間破砕』が生み出した次元断層にあっさり飲み込まれて『ハド』は永い眠りについた。まあ、他の家臣たちは不死人じゃないから即死しただろうけどね。そしてあの人は遼帝国に見切りをつけてわずかな金塊を持って東和に渡り、今の神前の実家の土地を買って剣道場を開いた。そして今に至る訳。これが俺がお前さんのお袋から聞いた『ハド』に関するすべて。隠し事は何も無いよ。それ以上の事はお袋さんも話したがらなかったし、俺は女が話したくないってことを無理に聞き出す趣味は無いんでね」


 嵯峨はあっさりとそう言うと満足げにタバコをふかした。


「でもそうすると姉さんはどうなったんです?『ハド』も自分の子供を戦場に連れていくことなんてしないでしょ?」


 誠は肝心の姉について嵯峨に尋ねた。


「それが記録が残って無いんだよ。本当に当時の遼帝国は無茶苦茶でね。何とか生き延びた遼帝室のそれなりに頭のいい皇帝が国を立て直したがそれには100年の時間がかかったほどだ。ただ、その150年後の遼帝国の中興の祖と呼ばれる女帝武帝の時代にはリョウ・カラは軍人としてその配下に居た。そしてその法術師としての能力を買われて『法術武装隊』の隊長になった。武帝もまさかカラがあの暴君『廃帝ハド』の娘だなんて知らなかったんじゃないかな?カラが『廃帝ハド』の娘だって分かってるのは気が合う人物だったガルシア・ゴンザレスと言う後に遼帝国を滅ぼして遼南共和国の独裁者になった男にそう言ったということを俺が知ってるだけの話だから」


 嵯峨の言葉にランの表情が曇った。


「ガルシア・ゴンザレス……久しぶりにあの『外道』の名前を聞いた……聞くたびに反吐が出る。なるほど、カラとか言う女がどんな非道な女かはあの『外道』と身の上話をする仲になることからもわかるぜ……今回の襲撃の手口もあの『外道』が好きそうな手口だもんな。ガルシア・ゴンザレスもアタシをああいった使い方をした。ただ、アタシは『人類最強』だから相手が全員死んだだけの話だ」


 ランはそう言って不機嫌そうに誠を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ