第162話 母の秘密
ランは自分の失言に気付くとそのまま立ち上がった。
「おい、オメー等隊長室までついて来い」
そう決意したように言うとランはそのまま機動部隊の詰め所から出て行った。
「なんで……西園寺さん……何か知ってます?」
ランの豹変に誠は隣で静かにうなずいていたかなめに声をかけた。
「まあ、叔父貴関係である程度はな。ただランの姐御が叔父貴の所で話すって言うんだ。行くぞ」
誠達はそのまま最近マシになって来たゴミ屋敷である隊長室を目指した。
「おう、来たんだって……ランよ。あのことについて話すと色々神前に説明しなきゃならないことが出て来るから話すなってあれほど言っといただろ?まあ言っちゃったもんは仕方ないよね。神前がまた逃げ出すとか言い出すと面倒くさいし」
隊長室では困り顔の嵯峨が座っていた。その机にはいつもあったピンク雑誌が消えていて、ひたすらオートレースの予想新聞だけが並べられていた。
「アタシのミスだ。神前の姉の話をしたらどうしても神前のお袋が本当は『法術師』だってことを話さなきゃならなくなる」
ランの言葉に誠は衝撃を受けた。
「母さんが『法術師』……でも母さん法術適性検査はまったく反応しなかったって……」
驚きの表情を浮かべてつぶやく誠に嵯峨はニヤリと笑って見せた。
「地球科学をベースとした法術適性検査なんて最強クラスの法術師にとってはざるみたいなもんだ。そんなものを隠すなんて簡単なことだよ。ランの場合はそのちっちゃい身体で平気で100キロ近いものを持ち上げたり平気でするから『身体強化』が絶対バレちゃうけど、法術適性反応を消すことは出来るんだ。お前さんのお袋さんも力を隠す法術を持っている。それを使ったんだよ。だから誰もお前さんのお袋さんが法術師だってことに気付かなかった。上には上がいるもんだ。そこんところは忘れないでね」
そう言いながら嵯峨は誠を笑いながら見つめた。
「それにまず、アン以外の人間は神前のお袋さんに会ってる訳だからその時点で『おかしい』となんで思わなかったのかな?あの人、戸籍上はもう50歳超えてるんだよ……まあお蔦も戸籍上は50なんだけどね……あの見た目。つまりその意味するところ。俺の口から言わなくても分かるんじゃないかな?」
嵯峨は誠達を試すようにそう言った。
「母さんは不死人……年を取らない……」
誠は身近なところに不死人の存在があったことに衝撃を受けた。
確かに昔から母の見た目は変わっていない。皺どころか白髪も無い。どう見ても嵯峨の見た目と同じくらい25歳前後の姿で今も普通に暮らしている。
「義父さま、それじゃあ『神前一刀流』を興された遼帝国の姫君と言うのは薫様ご本人と言うことですね?」
かえでは察しよく嵯峨に向けてそう言った。
「そう言うこと、あの人は200年前、あの暴君『廃帝ハド』を遼南大陸奥地にあの人の力で作った次元断層の中に封印した。あの人にはそのくらいのことは簡単に出来るんだ。たぶんあの人と互角にやりあえるのはこの中ではランだけ……俺が知ってる限りあとあの人といい勝負が出来るのは康子義姉さんくらいのもんなんじゃないかな……神前もそんな強い母の子だということを忘れないように。まあその割にはお前さんが弱すぎるのは確かだけど」
嵯峨はそう言うと誠を鋭い目つきで見つめた。
誠は嵯峨の語る言葉の意味が分からず混乱していた。