第15話 はぐらかす『駄目人間』
「それにしてもお父様……これからどうなさるおつもりですの?ひよこさんが来れば自分の無実は晴れるの一点張り。いい加減自分の罪をお認めになった方がよろしくてよ?一体お金が何処から出てきたか……まさか甲武でも賭博を?お父様。あれほど違法賭博には手を出すなと言ってるじゃないですか」
整備班員達の大集団が隊長室から去ると怒りに震える表情の茜はそう嵯峨に言った。
「だから、お金の絡みでお蔦がここに来たわけじゃ無いんだよ。これは愛。純粋な愛なんだ。えーとねえ。とりあえず、お前さんと機動部隊の面々。それと後で運航部の噂好きの女共に説明してもらうためにアメリア。以上のメンツで第一会議室に移動するんだ。そこで色々茜にお願いすることがあるし……結構、俺とお蔦さん達の話は良い話だよ……聞いとくのも悪くないと思うんだ。特に童貞の神前には為になるかも」
ニヤニヤ笑いながら嵯峨はいつもの策士のペースを取り戻していた。
「そうだよ……新さんとアタシ達の馴れ初め……それに新さんのお仲間の若い頃のお話……泣ける話も有るんだから!」
お蔦は自分達を汚いものを見るような目で見る茜に向けてそう言い放った。
「女郎を買ったことの自慢にどこに泣く要素があるのかわかりませんが……確かにこんな狭いところでお父様の聞くだけ無駄の言い訳を聞くのも何ですわね。移動しましょう」
茜は諦めたようにそう言うと先頭を切って隊長室を出て行った。
「神前。アンの奴がどこ行ったか探してきてくれないかな?アイツは有ること無い事、隊の全員に触れて回っていらん混乱を引き起こしてる。なんとか止めてきて第一会議室まで引きずってきて頂戴よ。これ以上隊を混乱のるつぼに落す訳にはいかないんだ」
嵯峨はそう言うと誠に手を合わせた。
「はい、わかりましたけど……隊長の自業自得になんで僕が……」
誠はそう言うと隊長室を出て行く一同に紛れて隊長室を出た。
「アンの奴……さすが心は女の子なんだな。ゴシップ好きは大したもんだ。隊長じゃなくても面倒なことだと思いたくもなるよ」
少しは嵯峨に同情しながら誠はあたりを付けた管理部のドアを開けた。
中には予想通り部隊の経費計算等を担当しているパートのおばちゃん達に身振り手振りを交えながら話をしているアンの姿があった。
「隊長はそんなことはしないってアンに言っても一向に信用してくれないんだよ。『武悪』の移送に関してはすべての経費の把握は僕も出来てるんだ。隊長はそこまで腐って無いよ」
管理部長室で困ったような顔をしているのは司法局実働部隊の管理部長で背広組のエリート官僚である高梨渉参事だった。金の専門家である東和国防軍のキャリア官僚で嵯峨の信望も厚い高梨をしても嵯峨の女好きと金欠はパートのおばちゃん達の盛り上がりを停めることは出来なかった。
「でもあの『駄目人間』の事ですよ……花魁を買うくらいの事はやりかねませんよ」
うわさ話に歓声を上げるおばちゃん達を置いておいて誠は高梨にそう愚痴った。
「なあに、隊長の父親の方がもっと酷かったんだ。妻が3000人。子供が324人いた。それに西モスレムの王様も妻は100人を超えるし、子供も何人いるか……。それに隊長は自分の金は好きに使うが、領民から収められた金には一切手を付けない主義だ。その辺の行使の峻別はしっかりできる人だよ。そのくらいの信頼はしてあげても良いんじゃないかな?」
誠は高梨の言葉か理解できずに呆然としていたが、すぐに勝機を取り戻してリアルな嵯峨の間抜け面を思い出した。
「それは皇帝とか王様の話でしょ?隊長は確かに貴族ですけど度が過ぎますよ」
困った表情の高梨の前を通り過ぎると誠はうわさ話に花を咲かせるアンの襟首を掴んだ。
「おい、アンいい加減にしろ。お前のせいで隊は大混乱だ。これ以上あること無い事話すんじゃない!」
強い口調で誠はアンにそう言った。
「そうだぞ、アン。無駄話より仕事をしろ。隊長はそこまで腐ってはいない……俺は信じてる!第一それが事実ならこの隊の島田以外の童貞の男性隊員が浮かばれない!そのくらいのことは隊長も分かっているはずだ!」
一人、噂話から放置されていた隊の嫌われ者である主計曹長の菰田邦弘がそう言って珍しく嵯峨を庇った。
「でも……あの隊長ですよ?金があるとすぐ風俗に行く……これまでのあの人がしてきたことを考えたら僕が話したことに間違いはないと思うんですが」
アンはそう言うと誠を向き直った。アンの言葉にパートリーダーの白石さんをはじめおばちゃん達も大きくうなずいた。
「それも全部隊長が説明するそうだ。隊長がひよこちゃんも交えてお前に直接説明して誤解を解きたい第一会議室に来いということだ。お前も呼ばれている。とっとと来い」
誠はそう言うと話したりないという表情のアンを引きずって第一会議室に向った。