第14話 やんちゃ自慢の結果
混乱はこれだけでは収まらなかった。『純情硬派』を看板に掲げる島田を先頭に整備班員の童貞野郎たちが次々と隊長室に押し掛けてきた。もうこうなると部屋に入れるのは島田一人、残された整備班員達は隊長室の前の廊下で中の様子を殺気を込めた視線でにらみつけていた。
「おい、隊長!アンタを見損なったよ!俺は悪いことはしてるが公金横領とはそれが大人のする事か!アンタはそんな汚い大人じゃねえと思っていたがどうやら俺の思い過ごしだったみてえだな!アンタも自分の欲の為なら何でもする汚れた大人なんだ!」
白いつなぎを着て怒鳴りこんで来たのは何時までも『盗んだバイクで走りだす十五の夜』を忘れないヤンキー、技術部長代理兼整備班長の島田正人准尉だった。その後ろには整備班の彼の部下達が部屋に入りきれずに立ち尽くし、嵯峨をにらみつけてきていた。そこにはまるで不良高校生が汚い大人を見るような純粋な瞳が輝いていた。
「今度は島田か?アンの奴ほぼうちの隊の全員にこの話を広めて回ってるんだ……暇だねえ、アイツも。もう俺も匙を投げたよ。もう好きに俺の事を悪く言うがいいさ。すべてはひよこさえくればその疑いも晴れるんだから」
呆れたような表情を浮かべて殺気立つ隊員達を嵯峨は余裕の笑みを浮かべて見まわしていた。
「隊長、どうなんだよ!アンタは普段は『駄目人間』だがいざと言う時はやる男だと俺は思ってたんだよ。それがこの様だ!女が欲しくて公金横領?最低の人間だ。どんなクズの政治家だってしないような悪行を平気でやる男だったんだな、アンタは!それに整備班長として『硬派』売ってる俺としては面子が丸つぶれなんだよ!どうしてくれるんだ!」
ヤンキーらしく怒りに震える目でガンを飛ばして来る島田にも嵯峨はまるで気にも留めない様子だった。
「お前さんが『硬派』になったのはランの教育を受けるようになってからだろ?その前の話……していい?本当に良いの?それで損をするのはお前さんだ。俺には関係ない。俺は知ってるよ……当時お前さんが何をしてたかを」
嵯峨はいかにも何か知っているという顔でいやらしい笑みを浮かべながら島田を見つめた。その目を見ると島田の顔に動揺の色が浮かんだ。
「何が言いてえんだよ……隊長さんよ……」
強がる島田には誠から見ても明らかに分かる動揺の色が浮かんでいた。
「相州レディース……女ばかりの暴走族だ。そこの総長……大層美人だったらしいじゃないの……しかも、複数プレイがお好きだったとか……そこでお前さんがその総長とその暴走族で気に入った女達と何をしていたか……ここで言っても良いのかな?後悔するのはお前さんだよ」
嵯峨のその言葉を聞くと島田の顔は真っ青になった。
「その時のさあ、すべての行為を撮影した無修正のビデオが……残ってるとか……残ってないとか……。流出モノのビデオではそこに居る男のお前さんの顔にはモザイクが入ってるけど、俺はあれのオリジナルの無修正版をデータで持ってる。あれは間違いなく17歳のお前さんだ。そんなビデオを業界に流して悦に入るなんてあの総長、かえでと趣味が合うんじゃないのかな?同じ露出癖がある者同士で」
この言葉が止めだった。島田はがっくりとうなだれた。誠はその表情を見て島田の過去のヤンチャとそれがあまりに島田らしいと感じて吹き出してしまうところだった。
「何?正人……その総長と何か関係があったの?」
純朴な笑みを浮かべて島田の現彼女であるサラが島田の肩に手をやった。
島田はその手を取ると静かに立ち上がった。そしてカっと目を見開いて部下の整備班員達をにらみつけた。
「おい!貴様等!仕事はどうした!今は勤務中だ!こんなところでふざけてる時間は俺達にはねえんだ!あの手のかかる隊長様の『武悪』の機動データの整理!とっととかかるぞ!」
誠から見ても明らかに隠し事がすべて嵯峨にバレていることを知って慌てている様子が目に見える島田はそう言って部下達を追い立てていった。
「隊長、自分のやんちゃがバレると島田の馬鹿の無茶をばらすと脅す……相変わらず悪人だな。まあ、あのかえで並みの変態の曹長とアイツを別れさせたアタシが言うのもなんだけどな」
嵯峨の狡猾な手口に呆れ果てたような表情を浮かべたランは苦笑いを浮かべながらそう言った。




