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第138話 かなめとかえでと誠と未来

「このまま僕と誠君が導けばそう遠くない未来にかなめお姉さまは関白の地位にふさわしい人間になれる。その時、僕はお姉さまを関白に推挙する。四大公家には関白推挙の権限がある。そして、これはお姉さまには内緒だが、次の『殿上会』では左大臣九条響子さまとあの馬鹿な征夷大将軍、右大臣田安麗子もお姉さまの関白就任を後押ししていただける手はずになっている。あの国はその時変わる。僕達が変えて見せる。もう時代は島津時久のような権力欲だけが取り柄の老人の時代じゃ無いんだ。僕達未来を見据えることが出来る若者の時代なんだ」


 かえでは食べ終えたどんぶりを置くとそう言い切った。国の行く末を担う三人の女性の決断の瞬間に立ち会った誠は鳥肌が立つのを感じていた。


「次の『殿上会』で、お姉さまは『検非違使別当』と言う官位から一足飛びに関白になる。そうなれば甲武国の最高意思決定機関でもある『殿上会』であの狡賢い島津時久も何もできなくなる。所詮あの男の官位は『薩摩守』。所詮は地方のお山の大将が関の山の殿上の間に上がる事が許されるギリギリの官位しか持っていない。確かにあの男は枢密院議長を何度も務めた議会では力を持つ男だが『殿上会』ではそんな経歴はまったく無意味だ。陸軍でも退役した者の元帥の位を持ち圧倒的な影響力を持つがこれもあくまで退役軍人として目を光らせているだけ。あの男のその力は『殿上会』ではまるで意味がない。軍でも日々過去の人になりつつある。どこまで行っても身分がすべてのあの国ではあの男は一応は殿上人とは言えその官位は『薩摩守』に過ぎない。そして軍でも直接的な影響力は日々落ちている。『殿上会』では末席に座ることを許されているだけの発言権の無い弱い存在なんだ。そこを突く。そこで力を失えば奴の軍での発言力は一気に地に落ちる。それが僕の狙いだ」


 そう言うとかえでは勝ち誇ったように右手を振り上げた。


「元々、お姉さまは島津時久には恨みがある。お姉さまは陸軍に入るとすぐに非正規部隊の隊員として汚れ仕事ばかり押しつけられてきた。確かに陸軍を退役した島津時久がそれを指示したわけでは無いが、あの男の意向を酌んだ軍の幹部がそう仕向けたのは明白だ。まあ、お姉さまは単純だから島津時久が自分を酷い目に遭わせたと思い込んでいるからその思い込みを次の『殿上会』では利用する」


 かえでの顔に浮かんだ笑みはどこか冷淡で誠は寒気を感じた。


「関白には官位を与える権限、剥奪する権限がある。そして官位を持つ者の生殺与奪権はすべて関白にある。お姉さまは島津時久を許さないだろう。最低でも薩摩守の位をあの男から取り上げること位いくらでもやりかねない。その時、お姉さまの機嫌が悪ければその場であの男を射殺して島津家の一族郎党流罪にするかもしれない。事実、そうされても仕方のない失点をあの男は犯している。あの男は前の戦争ではひたすら無能な将軍だった。そして『官派の乱』の際には首都鏡都制圧を担当していたのはあの男だ。それも『甲武の鬼姫』と呼ばれたお母様の法術師としての能力の前にあえなくとん挫した。『官派の乱』では『官派』の軍人・貴族は多くが処罰されたがあの男だけは持ち前の政治力で一切の罰を受けず、官位も剥奪されず、所領も安堵された。その事実をかなめお姉さまが蒸し返して島津時久を糾弾することは確実だ」


 かえでは非情にそう言い放った。


「流罪ですか……あの廃棄コロニーに放置されて餓死するって言う甲武の刑ですよね。西園寺さんもさすがにそこまでは……」


 誠は頭を掻きながらそう言った。


「今のお姉さまなら確実にやる。お姉さまが敵に非情に慣れることは君も知っているだろ?お姉さまにとって島津時久は許すべからざる敵だ。恐らく情けなどかけないだろう。だからと言って一足飛びに島津家取りつぶし、一族郎党流罪では『官派』の連中も黙ってはいないだろう。いつ自分が非情な関白に同じ目に遭うか分からないという意味くらい連中も分かるだろうからね。だから今のお姉さまでいてもらっては僕としては困るんだ。窮鼠猫を噛む。追い詰められた島津時久がどんな手を打ってくるかまでは僕にも読めない。だからお姉さまには成長していただかなければならないんだ」


 かえではそう言うと箸をおき手を叩いて仲居を呼んだ。

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