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第135話 孤独な『平民宰相』

「特に力を持ちなれていない人間が力を持つと確実にその人は変わる。十五人。この数は何の数だと思うかな?」


 かえではナメロウに箸を伸ばしながら誠に尋ねた。


「え?いきなり聞かれても……僕は甲武国の事情には疎いですし……あの国が複雑なのは西園寺さんに聞いて分かってるんで」


 誠にはそう答える事しか出来なかった。


「義基お父様があまりに酷い汚職や職権乱用の罪で官憲に告発して平民は斬首、士族は切腹させられた義基お父様を支持する議員の数だよ。義基お父様もそのあまりに持ちなれない権力におぼれておごり高ぶった彼等を許すことは出来なかった。その変容ぶりはほとんど狂気の域に達するほどのものだった。だから彼等がどんなに助命を義基お父様にたのんでも義基お父様は許さなかった。義基お父様が政権を取って僅か8年でこれだけの数の議員が処刑されている。議員辞職で済む程度だった軽度の汚職はもっと多い。持ちなれない権力。自分に与えられたのではなく自分の座っている椅子にその権力の源があると言うことを理解できなかった議員はそれだけ多かったということだ」


 そう言うかえでの口調は悲し気で、その表情には怒りの色が見て取れた。


「確かに『近藤事件』で世は義基お父様の『民派』の世となった。しかし、その政権はまるで『ガラスの城』なんだ。政敵である『官派』や中間派の権力者ともつながりのあるお母様が調べたところによると、義基お父様を支持する議員の中に後ろ暗いところの無い議員は一人もいない。誰もが表面上は『宰相』と言う仮面をかぶる義基お父様にしたがっているふりをしているが、実際のところ自分の握った権力にしがみつくことしか考えていないんだ。そしてそれを行使して私腹を肥やしたり、そうでなくても名前を売って議員を辞めた後でどうやって生活していくかということしか考えていない」


 かえでの口調はだんだん怒気を帯びてきた。誠はそれを静かに見守るしかなかった。


「だから義基お父様はいつも孤独なんだ。自分の理想を本心から実現しようとする同氏は一人もいないことはわかっているのだから。義基お父様の周りにはうわべだけで義基お父様の理想に賛同する振りをして本心では自己の利益しか考えない。それがすべての政治家の本質だ。政治の世界に本当の意味で義基お父様の理想を実現しようとする政治家は一人もいない。彼等は平民の為の政治をすると言うがすべては口先だけ。立派なことは言うが行動はまるで伴っていない。お父様はそれでも一度掲げた平民の為の政治の旗を降ろす気は無い。それを下ろせば仮面としての宰相では無く、義基お父様自信が負けたことになる。だから、いくら孤独でも、いくら周りに仮面にしか興味の無い薄っぺらい政治家しか居なくてもその旗を降ろすことはない。そんな『ガラスの城』の城主として君臨し続けるしか義基お父様には残された道は無いんだ」


 かえではそう言うと静かに置かれていたお茶を口に含んだ。


「『近藤事件』で貴族主義は沈静化したはずなのに……僕は……僕のしたことはいったい何だったんでしょうね……せっかく平等な世界が甲武にもやってくるんじゃないかと思って僕は戦ったのに……」


 かえでの語るかえでの実父の絶望的状況に誠は言葉を失っていた。

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