第130話 『姉』と『弟』
「あんな口先だけの地球人の言うことを鵜呑みにして良かったのか?確かにアメリカは我々を徹底的に敵視していて交渉の余地はない。だが、組むのはフランスか?遼州人の移民した数なら旧中国北部の満州地方を領有しているロシアの方が多い。当然、法術に関する技術もロシアの方が進んでいる。そちらと組んだ方が得策ではないのか?」
廊下に出るなり、桐野はぶしつけな口調でそう切り出した。
「あそことはうちと手を組んでるカーンの爺さんにはコネクションが無いんでね。まあ、今日の眼鏡の提督の話も話半分に聞いておくさ。半分と言えば、桐野。お前も半分は地球の血が流れてるって話じゃないか。そう言うお前の話もどこまで信用していいのかねえ」
カラのいかにも堂々とした態度を見てフランス軍の兵隊たちは敬礼をして二人を見送った。
「俺の話は良い。ただ、地球人を信用する……『廃帝』にしてはずいぶん甘い考えなんじゃないかと俺は考えている」
桐野は手にした大きめの製図用の筒を手にカラに続いた。その中にはいつも女を斬っては犯す時に使っている日本刀が入っていた。
「うちにシュツルム・パンツァーを作る技術が無いのは事実なんだから仕方がないだろ?それに東和のシュツルム・パンツァー製造を行っている企業はどこもうちの台所事情を承知の上で高すぎる金額ばかり提示してくる。まあ、連中にはお抱えの法術師はうんざりするほどいるから北川を派遣して子作りをするなんて言う裏技は通用しないしね。ネオナチのあの爺さんは飛行戦車さえあれば多足歩行機械なんて必要ないと言う合理主義の国ゲルパルトの御仁だ。だからさ、とりあえず地球圏でシュツルム・パンツァーに興味を持ってる国……アメリカの帝国主義者は除外すると必然的にネオナチ連中とはついて離れずの関係のフランスを相手にするほかなくなる。こちらとしてもこの計画は妥協の産物なんだ。諦めな」
カラはそう言うとそのまま乗降ゲートに向う廊下に歩み出た。
「まあ、あのクバルカ・ランを戦場に引きずり出すにはどうしてもシュツルム・パンツァーが必要になるからね。それまではあの出来の悪い『弟』の相手でもして時間を潰すとするかね」
そう言うカラの口元には残忍な笑みが浮かんでいた。
「また茶坊主の秘蔵っ子の『神前誠』とか言う餓鬼のお守りか……世話がやける」
桐野はため息をつきつつそう言った。
「それじゃあ、北川の種付け馬への転職祝いとアタシのあいさつもかねて弟の所にちょっとしたいたずらを仕掛けてみようかね。ああ、桐野。お前は顔が割れている。アタシの部下がいつものやり方で様子を見る。法術師なんて必要ないだろ。ただのいたずらだから使い捨ての駒を金で集めて使い潰すだけで十分さ。とりあえず挨拶……姉から弟へのこれから楽しい躾の時間が始まるってことのあいさつをさ」
乗降ゲートにたどり着いた二人を縦須賀の港の浜風が包んだ。
「法術師を使わずに?何をする気だ?」
桐野は不思議そうにカラにそう尋ねた。
「アタシは『法術武装隊』と言う準軍事組織の隊長をしていたんだよ。当然それ以降も色々と戦場を歩き回ってね。その時のコネが色々とあるのさ。とりあえず通常兵器で弟とその仲間達がどれだけ成長したか見てやろうって話だ。姉としての愛、アタシを捨てて弟をかわいがるあの女に対する当てつけにもそれが一番の方法なのさ。それでくたばるようなら弟もそれまでの存在だった。それだけの話ってことになるかね」
フランス艦隊旗艦『マルセイユ』の高い乗降ゲートのエレベーターを降りながらカラは残忍そうな笑みを晒しその本性を現した。