第13話 お節介なギャラリーたち
「おい!叔父貴が甲武の花街の大店で一番の花魁を買って来たって本当か!さては嵯峨家の至宝中の至宝である家宝の『曜変天目茶碗』を売ったな!アレがオークションに出たら宇宙中の収集家が目の色変えて飛びつくぞ!いくらで売った?あれは2000億は下らねえ金額で売れるだろうから、しばらくは金に困らねえな!オメエは茶人だと常に言ってるが女の色香には勝てなかったわけか!ざまあみろ!」
乱暴に開かれた隊長室のドアから飛び込んできたのはかなめだった。
「おい、叔父貴……スケベだとは思っていたがここまでとは……逆にアタシは見直したね。アタシは東都戦争の時は情報収集の為に娼婦の真似事をしていたが、アタシに入れ込んで財産潰した馬鹿をさんざん見てきた。叔父貴もようやくそのレベルに達したわけだ……こりゃあ傑作だ!このスケベ親父!これで『駄目人間』からスケベ親父にランクアップしたんだ!姪として祝ってやる!良かったな!」
かなめは満面の笑みを浮かべながら自分に鋭い視線を投げて来る茜を見つめた。
「おい、茜。オメエがいつまでも小遣い3万円で叔父貴を虐めてるからついにグレちまったんだ!責任感じろよ責任!最低価格の風俗ばっか通っててついにこうなっちまった!たぶん脳が梅毒でやられちまったんだ。かえでが来た時も叔父貴は梅毒の初期だって性病が専門の意志であるリンの奴が言ってたからな!全責任は茜にある!叔父貴!茜を一度しっかり父親として叱ってやれ!」
そのままつかつかと茜の所まで行ったかなめは得意げにあかねをたれ目でにらみつけた。
「かなめお姉さま。私はそうは聞いていませんよ。なんでも昔のお父様のやんちゃの結果こうなったらしいと……」
茜はそう言ってお蔦を見つめた。お蔦は大きくうなずいてかなめを見つめた。
「おい!『駄目人間』!ついに落ちるところまで落ちたな!」
「隊長、見損ないました」
「僕としては望むところなんだけどねえ」
「はい、かえで様は常に正しいです」
さらに乱入してきたのは機動部隊の面々だった。軽蔑する視線を送るどう見ても幼女の副隊長クバルカ・ラン中佐。死んだ目で嵯峨を見つめる第一小隊小隊長のカウラ・ベルガー大尉。二人とは違い落ち着いた表情の『男装の麗人』第二小隊小隊長日野かえで少佐。そしてそれに付き従うかえでの副官兼愛人のリンの乱入で広いはずの隊長室は一杯になった。
「アンの野郎……粋ってもんが分からねえのかなあ。アイツ全隊員に俺の事をふれて回るつもりだぞ。あること無い事広めやがって。困ったもんだ。まあ若かったとはいえ俺が蒔いた種だもんね。自業自得か……仕方がないよね」
嵯峨は諦め半分にそう言うと嵯峨の隣に仁王立ちしているランに眼をやった。
「ランよ。これはあくまで俺の若気の至りだ。俺は公金横領はしていないよ。俺は手持ちの金は少ないが領民が収めた金を自分一人の快楽の為に使うような腐った男じゃ無いんだ。遼州人であるお前さんには理解を超えてるかもしれないが、これはお蔦の愛のなせる業。つまり俺はそれだけモテていたという事実を証明しているだけなんだ。『愛なんてフィクションにしかねー!』とか言ってるお前さんには理解不能かもしれないけどさ」
弱弱しい口調で嵯峨はランにそう言い訳した。
「そうかい。じゃあ、花街の大店の一番の太夫を身請けした金はどこから出てきたんだ?説明しろ、『駄目人間』」
ランは静かでいて怒りに震える口調で嵯峨を責め立てた。
「だから誤解だって。お蔦が若く見えるのもひよこが来ればその理由がはっきりと分かるように説明してくれると思うから。それまで待ってよ。俺が若く見えることをお前さんは何にも不思議に思わないでしょ?俺は不死人。不老不死。遼州人の法術師にはそう言う人間もいるとお前も俺も自分自身を見ていつもそう感じている。それと同じことが地球人のお蔦にもある条件が重なることで起きた。そんだけ。その原因は専門家であるひよこの説明を聞けば俺を色眼鏡で見ているお前さんの俺の見方も変わる!それまで待て」
なんとかその場を収めようと嵯峨はそう言い訳した。
「隊長が甲武から女を買って来たんですって!どんなプレイがお好みなのかしら!花魁だもの、着衣プレイよね!」
「隊長不潔です!愛はお金じゃ買えないんです!ここは東和なんです!そんなことが許されると思ってるんですか!」
「アメリア!サラ!そんなに騒いだって状況は変わらないわよ!それに隊長の女好きは病気だって前から言ってるじゃないの!」
今度は運航部の面々だった。好奇心いっぱいの顔で嵯峨とお蔦達を見比べるアメリア。汚いものを見るような目で嵯峨を見つめる運用艦『ふさ』管制担当のサラ・グリファン中尉。そして、二人を止めようとする『ふさ』の副長であるパーラ・ラビロフ大尉の姿まで入ってきて部屋は混乱に包まれた。
「アンよ……もう噂を広めるのやめてくれないかな……確かにこの部屋は広いけどこれ以上人が入ってくると洒落にならないよ」
嵯峨は一人そう愚痴っていた。