第128話 法術師になることを志願した女
「それにしてもあんた。日本語が上手いな……俺が前の戦争で殺したアメリカ兵の捕虜たちは日本語なんかできなかった」
それまで沈黙していたトレンチコートを着た男、桐野孫四郎はそう言うと表情も変えずに鉛のような目でカルビンを見つめた。
「ああ、私はもう30年も遼州艦隊勤務なものでね。遼州圏の公用語は日本語だから共和国は日本語の素養のある人間しかこの艦隊には派遣しない……当然、北川氏の相手を最初に勤めてもらう我が艦隊の『ばらの騎士』の異名を持つ女性も日本語はほぼネイティブレベルだよ。北川君、早く会いたくないかね?君が初めて抱く女に。彼女も君の写真を見ていたが相当君の事を気に入っているようだ。特に君の『元学生活動家』というアウトローな雰囲気が彼女の好みらしい。かなりのじゃじゃ馬だが、腕は立つし私も手放すのが惜しいくらいなんだ」
そう言うとカルビンは手元のスイッチを操作した。
自動で開かれた執務室のドアの外には一人の大柄の女性が立っていた。
肩まで伸びた茶色い髪の目つきの鋭いのが目に付くほかはいかにもグラビアにも出てきそうな白人女性がフランス軍の制服姿でそこに立っていた。
「ナオミ・ロクサーヌ大尉、入ります」
敬礼後、女はそのままカルビンの所まで静かに歩いて行った。
「ロクサーヌ大尉。君らしくないじゃないか。君のじゃじゃ馬ぶりはおそらく北川氏を振り回すことになると思ったんだが……これからもそのような態度を取ってくれると地球圏の女性の遼州圏でのイメージが上がるんだがね」
カルビンは笑顔を浮かべるとナオミを見上げた。
「あのアロハの男か?私を法術師に生まれ変わらせてくれるのは」
カルビンにそう言われるとナオミの態度はいかにも腕に自信があると言うパイロット特有の横柄なそれに変わった。
「いい女じゃん。こんなのを最初に孕ませるのか?良い話じゃないのよ……な?桐野の旦那。死んだ女より生きている女を抱く方が百倍楽しいんだ。覚えておきな」
「知ったことか」
北川は桐野にそう言うと立ち上がりそのまま頭の毛を軽く撫でつけながらナオミの所へと歩いて行った。
「公平。貴様は私の言うことを聞いていなかったのか?貴様が私にすることは女を孕ませることと同じことだが。私はピルを飲んでいる。妊娠することは無い」
ナオミは北川に向けて冷たく言い放った。
「それじゃあなんで……あの噂……本当だったってわけか。カラの姫さん。アンタは知ってたな?覚醒した法術師が遼州人以外の女を抱くとその女にはその法術師の力が伝染する……ナオミさん。それを望んでいるのか?」
北川はカラとナオミを見比べながらそう言った。
「それは我が国の諜報部が白頭鷲の連中の極秘資料から手に入れたデータで明らかになっている。これからは時間が有ればお前には私の相手をしてもらう。そして、同時に排卵日の女も抱いて妊娠させてもらう。それが終われば私自らお前を一人前のシュツルム・パンツァー乗りに育てる。その間も余力が有れば私の相手をしてもらう。私に能力が発言し、お前を上回る法術師として生まれ変わるまでその日々は続くことになる。結構、きついスケジュールになるがその覚悟はできているんだな?お前は一日最低二度は女を抱くことになるわけだ。特に私は一度や二度では満足するような女じゃないよ。きつい生活になるが耐えられるかな?」
ナオミは相変わらず横柄な態度で北川をにらみつけた。
「そりゃあ大変だ……でもまあ、俺もそちらの方には自信が有ってね。据え膳食わぬはなんとやら、ナオミさん。早速行きましょうか?」
そう言った北川の腕をナオミは強引につかんだ。
「私を満足させるのは難しいぞ……ただ、お前が私を法術師に変えるまで嫌でも付き合ってもらう。それがお前に与えられた任務だ」
ナオミと北川はそう言って執務室を出て行った。