第123話 痴女と浜辺
車はさらに走り続け、高速道路の車線も二車線から一車線に減った。
周りの光景も田んぼが広がる平野地帯から海に突き出す岩山が目立つ海岸沿いの曲がりくねった道へと変わっていった。
「ほら、ごらん。海が見えるよ。これは自然の海がある東和ならではの光景だね。硫酸の海しかない甲武で生まれた僕には最高の光景に見える。東和生まれの君には当たり前の事でも、甲武生まれの僕には新鮮に感じる。こういう違いを共有していく。それは楽しい事だと僕は思うな」
かえではそう言って右の方を指さした。
そこには海とその向こうには遥か遠くの縦須賀半島が蜃気楼のように浮かんで見えた。
「ここらあたりは潮干狩りで有名ですよね。潮干狩りなら水着と言うことでその恰好もアリかもしれませんね。その時はまたデートに誘ってくださいね」
誠はフォローのつもりでかえでに向けてそう言った。
「そうかな?僕は屋敷ではいつも裸で暮らしているから特にそんなことは感じないけどな。それが犯罪にならなければ一年中裸で欲情の視線を浴びながら暮らしたいくらいだ。それと君からのデートの誘い。僕が断ると思っていたのかい?それにしても六月は遠すぎるな。その前に何回か一緒に出掛ける機会を持ちたいんだ。その時はそれにふさわしい格好をするように僕も努力するよ。それじゃあ、高速を降りてその浜辺に行こう」
「裸で暮らしているんですか……それはちょっと……」
ドン引きする誠を他所にかえではそう言うとインターチェンジを降りて料金所でスマートに会計を済ませると一般道に車を乗り入れた。
オープンカーならではと言うか、風が潮の香りに包まれる。
「海なんですね……僕はほとんど旅行はしないのでこういう景色は新鮮で楽しいです」
誠は背後にもう遠慮することは無いという調子でぴったりとくっついてくるリンの運転するスポーツカーを気にしながらかえでにそう言った。
「いい風だ。海の風。硫酸の海しかない閉ざされた甲武で暮らしてきた僕にとっては最高のぜいたく品だよ。これは甲武ではいくらお金を出しても買えない。東和なら誰でもその気になれば誰でも手に入る。実に不思議なものだね」
誠はその乗り物酔い体質から車にほとんどのらないので海を見た機会はほとんど無かった。
車は海沿いの堤防に沿った県道を進んだ。
「あそこなら車を停められるな」
かえではそう言うと漁港の中に車を乗り入れた。
「ここに車を停めてちょっと歩こうか」
かえではそう言うと広々とした漁港の恐らくは魚を出荷するためのトラックを停めるであろう大型駐車場に車を停めた。
車から降りる二人だが、その隣に車を停めたリンは車から降りる様子はなかった。
「じゃあ行こうか、きっとここまで来ると水もきれいだよ」
かえではそう言うと漁港から反対側の道を歩き始めた。
置いていかれまいと誠もその後ろに続く。
しばらく続いていた波けしブロックが途切れるとそこには砂浜が広がっていた。
「見事な浜辺だね。あまり大きくないからちょっとした隠れ家にはちょうどいい。僕はこんな雰囲気が好きなんだ」
かえではそう言うとそのまま波打ち際まで歩み寄っていった。
「かえでさん、その靴じゃ歩きにくくないですか?」
ピンヒールを履くかえでに向けて誠はそう言った。
「いや、大丈夫だよ。僕は足首の強さには自信があるからね。それにしてもきれいな水だ……」
そう言ってかえでは誠に背を向けてしゃがみこんだ。その臀部からはかえでのお尻のすべてがほぼ丸見えになっていて誠は目のやり場に困った。