第121話 ところでこれからとデート初体験者は尋ねた
「それにしてもジャケットを脱いで正解だったな。この店の空調は高めに設定されているようだ。僕は暑がりでね……」
かえではそう言うと隣に置いた籐の籠からタオルを取り出すと顔のあたりを拭った。
「そうですか?僕はちゃんと服を着ていますけどそんなに暑くは感じませんが……それよりこれからどこに行くんです?僕は西園寺さんからも『オメエは甲斐性無しだ』と言われるくらいデートの予定なんて立てる能力が無いんで……映画でも行きます?」
誠は映画館なら暗いのでほぼ全裸に近いかえでと一緒に居ても大丈夫だろうと思ってそう言ってみた。
「映画かい?映画なら甲武にもあるよ。まあ、甲武の映画館でやってる映画はすべて白黒映画だけどね。カラー映画は風紀の乱れに繋がるということで文部省が禁止しているんだ。そんなことより今日はちょっと僕のわがままに付き合ってもらいたいんだ。この格好も今日の僕のわがままの一つ。本当は裸で過ごすのが僕は一番好きなんだが、東和でもそれは許されないから最低限の場所を隠すだけの格好で来たのだが、それも誠君が言うには東和の法律には抵触するらしいし、なにより君の好みではないらしい。僕は君色に染まりたい。だから次はより君色の格好をすることにしよう」
そう言うとかえでは静かに紅茶のカップを皿に置いた。
「お願いですから今度からはそうしてください。それにしてもその様子だとどこかあてが有るんですか?」
誠は自分でも間抜けだとは思いながらも2回目のデートはかえでが常識的な格好をしてくれるという約束をしてくれたことに満足していた。
「そうだね、甲武の海は硫酸の海だ。とても鑑賞に堪えるものでは無いんだ。そして甲武の環境は全て作られたものだ。空気も水もすべて作り物。いくらお金を出そうが身分が高かろうがそんなことは関係ない。それが甲武の現実なんだ。だから、僕はそんな東和ならではの自然の海の見える最高のロケーションんの場所を見つけた。ちょっと車で走ることになるけど……君は車には弱かったんだよね?大丈夫かい?」
かえでのささやかな気遣いが誠には嬉しかった。
「大丈夫です。部隊に配属になってから乗用車で吐いたことは一度も有りませんから」
誠はそう言ってかえでに笑いかけた。
「ならいいんだ。じゃあ、行こうか。時間は貴重だ。僕は知っているよ、君は時間には正確な質なんだって。それも僕と君が気が合う理由の一つなのかな」
そんな冗談を言いながらかえでは立ち上がった。誠もほぼ全裸に近いかえでの後に続いて立ち上がる。
『かえでさん……時間に正確なのはそうだけど、僕はかえでさんと違って露出癖は無いから気が合うとか言う次元じゃないと思うんですけど……』
誠はそんなことを思いながら、立ち上がるとすぐにかえでは誠に寄り添ってきた。先ほどのようなどこかのAVで見たような身体をこすりつけるようなこともせず、かえではしっかりと誠の左腕をつかんでそのままレジに向った。
「会計はカードで頼む」
誰が見ても痴女にしか見えない女性が上品にそう言って笑いかけて来るギャップに驚きながらもレジのアルバイトと思われる若い店員はかえでの差し出すカードを受け取った。
「じゃあ、このまま車に行こう。そして高速でしばらく走った後、クバルカ中佐がおいしいと認めた漁協が運営している魚料理屋の部屋を取ってある。そこで食事をする。そんな感じで構わないかな?」
かえではそう言って誠に笑いかけた。かえでの計画性に誠は舌を巻きつつ静かにうなずいた。