第115話 罰ゲームに近いショッピング
千要公園を出る間もかえでを見る男達の欲情した視線に誠はひたすら耐え続けて、快調に歩みを進めるかえでの後ろを二歩距離を取って歩いた。
「遅いぞ、誠君。僕達は『許婚』なんだ。この国には恋人を連れて歩く習慣は無いが婚約者を連れて歩くと言う習慣は有ると言う。ならば僕達も」
そう言うとかえでは誠の左腕にしがみついてきた。再び誠の手がかえでの股間に触れるがそこにはねばねばした液体があふれていた。
「みんなが僕達を見ているよ……そんなに僕達がお似合いなのかね」
かえではあっけらかんとそう言って他意の無い笑顔を浮かべた。
「違うと思いますよ。かなーりまずい危ない女とその被害者の男が罰ゲームをされているんだと思ってると思いますよ」
誠は正直な感想を口にした。
視線が痛かった。もし、ここでかえでが普通のいつものような男装をしていても巨大な胸で女と分かり美女を連れた東和に珍しい恋人同士として誠も鼻が高かったかもしれない。しかし、今の状態での誠の心理は完全に真逆だった。
「あれ何?AVの撮影?それにしてはカメラとか……ああ、隠し撮りね」
「あの引きつった男の顔……あれじゃねえの……どこかの大学のサークルの罰ゲームでもやらされてるんだよ」
「誰も警察を呼ばねえのか?あれは軽犯罪法違反だろ?」
すれ違う人々のささやく声が誠の耳に刺さる。かえではそんな言葉など聞こえていないと言うように胸や股間を誠に押し付けてくる。
「いいタイミングだね。開店時間だ」
デパートの前で開店を待っていた集団の視線がそんなかえでの声に反応して振り返り、そしてかえでの姿に釘付けになった。
「かえでさん、もっと小さな声で話しましょう。ただでさえ、かえでさんは目立つんですから」
誠は湿った股間を誠の手に擦り付けて来るかえでに向けてそうささやきかけた。誠の指先がかえでから出るねばねばした液体でぬれていた。
「僕が目立つのは持って生まれた美貌のせいだ。それは運命だと諦めているよ」
かえではそう言って誠にさわやかな笑みを浮かべた。
「かえでさんが美人なのはみんな分かってますから!それよりその恰好が……」
誠は自分の話を明後日の方向で理解するかえでに困り果てていた。
「人には美しいものを見る権利がある。僕の胸は美しい。僕の股間の花弁も美しい。だからすべての人にはそれを鑑賞する権利がある……君もいつかそう思えるようになるだろう。そしてそれを独占できる自分の幸せをかみしめて生きていくことになる……嬉しくないかい?」
店が開き、かえでのほぼ裸体に近い姿に集中していた観衆の視線が店内に向いた。
誠はそのことに安心しながら左腕にしがみついているかえでを連れて店内に入った。