第103話 女将の一言
「でも、お蔦さんの言葉には説得力があるような気がするのよ。誠君。西園寺さん達がそんな方法で強くなるなんて嫌よね?それに男なら守られるより守る側になりたいと思うもの。誠君。強くなりなさい。あなたが強くなれば西園寺さん達も無茶を言わなくなるわ。それが一番の解決策。男として独り立ちする。そうしたらこれまで見たいにこの子達も誠君をおもちゃ扱いすることも無くなると思うわよ」
いつの間にかかなめ達を見ながらビールを飲んでいた春子がそう言ってきた。
「西園寺さん達が一生懸命なのはわかります。でも、無理して強くなって欲しいとは思いません。すでに強いかえでさんが居るんですから……かえでさんに守ってもらうようになるのも仕方ないかもしれません。でも……女将さんが言うように僕が強くなればすべて解決するんですよね!頑張ります!強くなります!」
誠にはそう言う事しか出来なかった。そんな落ち込んだような表情の誠をかえでは温かい目で見つめていた。
「そうだね、それがいい。君は強くなれるよ。それは僕が保証する。もしかしたら僕を超える日も来るかもしれない。その日を楽しみにしているが……正直まだまだだね。それまでは僕が君を守る。そのすべてを賭けて愛する君を守るんだ。こんなに名誉なことは無いよ。それならば僕からクバルカ中佐に僕とリンが寮に移れるように上申しておこう……僕も自重すると言えばクバルカ中佐も納得してくれる……」
かえでは満面の笑みを浮かべて誠に笑いかけた。
「アタシは納得しねえ!コイツは色魔だ!しかも信用できねえ策士だ!自重する?考えられねえな!初日から神前を襲うに決まってる!」
冷静に話す妹に向けてかなめは強い調子でそう言い放った。
「オメエは変態行為のおかげでリンまで『干渉空間』を使えるようになった!こりゃあ不平等だろ?違うか?神前を護衛するのはアタシ等の任務だ。色魔のオメエには任せらんねえ!任務の為にはすべてを犠牲にするのが軍人だ!神前の精液を子宮で浴びるくらいなんてことはねえ!アタシは任務で何百と言う男の精液を腹の中にぶちまけられてきた!それが……その……神前のなら……」
啖呵を切った割にかなめの声は急に弱弱しくなった。
「カウラちゃんも。嫌がってるみたいだけど、これは任務なのよ。だからカウラちゃんに誠ちゃんの童貞をあげる。だからこれでカウラちゃんも納得できるでしょ?経験者から言うと『ラスト・バタリオン』の初めてって本当に凄いのよ。本当に脳の中が焼けるようになってそのことしか考えられなく……」
アメリアがそこまで行ったところでカウラは無表情な彼女にしては意外なほど敵意を込めた視線をアメリアに送った。
「私は断る!たとえ私が死んだとしてもこのままの力で神前を守って見せる!日野!貴様の助けなど必要ない!我々の今の戦力で対応するのが最善なんだ!私は戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』だ!所詮戦争の為の使い捨ての駒だ。そのくらいの覚悟はいつでもできている!」
カウラの目には涙が浮かんでいるのを誠は見逃さなかった。
「かえでさん。お気持ちはありがたいんですけど、カウラさんの言うことが一番正しいと思います。それに僕だってあのころとは違うんです。僕は足手まといにはなりますけど、それなりに『光の剣』や『干渉空間』の制御もできるようになってきましたし、これまでみたいに簡単に力を使った後に倒れることも有りません。だから、今のままで大丈夫です……今のままで。僕自身が強くなればすべて解決する。解決法は分かっているんですから」
誠は本心を口にした。今のままが一番。今のこの関係は少しのバランスの変化で壊れてしまう。誠には自分の命よりその方が怖かった。
「そうよね、今のままが一番の様に私にも見えるわ。もう、お店閉めるわよ。お蔦さん、暖簾仕舞って」
春子はそう言うと真剣な表情の誠に笑顔で笑いかけた。