第102話 まとめに入る太夫
「なんだかねえ、この子たちは。そんなにアタシみたいな身体が羨ましいかい?いつまでも若い身体。確かに良いことも多いけど不便なことも多いんだよ。アタシが店を借りる時もこんな娘に貸せるかって酷い扱いを受けたことが何度もあった。新さんも言ってるよ、会議の度に若造扱いされて舐められて困るって。でも……これからは新さんもアタシも永遠に若い精力を持ったまま生き続けられる。あの楽しみを永遠に続けることが出来るんだ。それだけが良いことかね」
そう口をはさんで来たのはお蔦だった。
「確かにアタシは新さんのおかげで年を取らなくなった。便利なことも多くあるけど、結構不便なんだよ。アタシが身請けされて西園寺御所の長屋に御厄介になってる間もこの見た目のせいで何度も苦労させられた。それから田川宿に戻って小料理屋を始めてからは、それこそ小娘の言うことなんか聞けるかっていうんで板前が次々辞めるんでアタシが料理を作らなきゃならなくなった。『法術師』とか言うモノになってもあんまり得があるもんじゃないんだ」
お蔦の言葉にかなめは少し正気に戻ったようにラム酒の入ったショットグラスを煽った。
「そりゃあ、日常生活だけの話だろ?それにアタシが欲しいのは不老不死の身体じゃなくて神前の持つ『光の剣』と『干渉空間』の二つの戦闘に役立つ能力なんだ。コイツの訓練の弱気で見ていられない事ったら……あれじゃあかえでの馬鹿に勝つなんて一生無理だ。でもアタシならサイボーグの身体と戦闘経験の蓄積で実戦経験の少ないかえでの弱点くらい見抜けるようになるからすぐに勝てるようになる。そうなればアタシは一流の法術師だ。今、アタシ等は一流の法術師を必要としている。アタシは近々に迫る危機の話をしているんだ。かえで、確かにテメエは強い。恐らくあの『法術武装隊』にもオメエクラスの法術師は多く見て一人か二人だ。たぶん軍事用サイボーグのアタシがフル武装で戦っても万に1つの勝ち目もねえ。だが、神前の……いや、そんな道具なんてもんに頼る必要はねえな。神前!アタシを抱け!毎日抱け!そして精が尽きるまでアタシの中で射精しろ!これは命令だ!そうすれば最強の身体を持った最強の法術師が護衛になる!そしてアタシは未来の甲武国関白太政大臣だ!オメエはその夫として甲武を代表する貴族になれる。何なら親父に行って庶民院の議員になれるように口を聞いてやってもいいぞ?悪い話じゃねえだろ?」
かなめはまたとんでもないことを言い出した。
「人を何だと思ってるんですか!僕は精子製造装置でも法術師製造マシンでも無いんです!西園寺さんが法術師になるためですか?そんな愛の無いセックスは僕は嫌ですよ!それと人の人生を完全に自分勝手なレールの上に乗せるのも止めてください!僕は東和国民です!テレビもラジオも無い甲武には行きたくありません!」
誠はかなめの無茶にそう言って答えた。
「これはオメエの命を守るために必要な処置だ。幸い、アタシ、アメリア、カウラはオメエと同じ寮に住んでいる。しかも、他の野郎共とは隔絶された三階の部屋だ。オメエは毎日アタシ等三人の誰かを抱け!アタシはアレの時の声が大きいけど階が違ったらそんな声も聞こえねえだろ!神前!覚悟を決めろ!アタシ等にはお前のアレとそれが出す精子が必要なんだ!」
かなめは立ち上がると銃を抜いていつもは外しているマガジンを叩きこんだ。
「ちょいと待ちな!銃で脅して男を犯すのかい?無粋だね。男と女は心と心のやり取り、手練手管の行き違いで結ばれるもんだよ。そんな力ずくなんて花街でも聞いたことが無かったよ。お兄さん。西園寺のお姫様のことはどう思ってるんだい?」
お蔦は誠に向けて妖艶な笑みを浮かべてそう尋ねた。
「僕ですか!西園寺さんは……嫌いじゃないです……」
誠は追い詰められて正直な気持ちを口にした。
「だったらいいじゃねえか!それとアメリアも抱け!カウラも抱け!カウラ!オメエはおぼこ娘を気取っちゃいるが神前に気が有るんだろ?神前の力になれるんだったらそんぐらいの協力はしろ!」
そこまで言ったかなめの頬をお蔦の平手が打った。
「分からないお姫様だね!アンタには男と女の情ってもんが理解できていないよ。アタシは確かに金で買われる女だった。でもね、今のアンタは違うんだろ?男をその気にさせる技も無いのに抱いてくださいなんてそんなに世の中甘くは無いんだよ!」
ぴしゃりとお蔦はかなめに向けてそう言った。
「だからさ、しばらくはかえでさんを当てにする事だね。かえでさん。アンタも少し焦りすぎだよ。このぼっちゃんは男と女の何たるかを理解していないんだ。その日が来るまで……その気になるまで……気長に待つのも恋ってもんじゃないのかね」
お蔦の言葉に一同は静まり返った。一人、カウラだけは我が意を得たりと言うように静かに烏龍茶を飲んでいた。