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第1話 当直明けの朝に

 ここは地球を遠く離れた星系、遼州星系だった。その遼州星系の国家共同体である遼州同盟機構にはいくつかの部局があった。


 その一つ、遼州同盟司法局は司法執行機関を統括する部局で、中でも司法局実働部隊は様々な理由で軍が介入すれば政治問題になりかねない大規模な紛争に対応するための『軍事警察機構』とされていた。


 ただ、そのあまりに個性的な隊長以下のメンバーはその多大な功績にもかかわらずそのあまりに個性的すぎる隊員達の起こす騒動ばかりが話題となり司法局内部はもとより、あらゆる軍事組織から軽蔑の目で見られており、人々は彼等を『特殊な部隊』と呼んであざ笑っていた。


 その司法局実働部隊の主力兵器である人型機動兵器『シュツルム・パンツァー』05式乙型のパイロットで、機動部隊第一小隊三番機担当の神前誠(しんぜんまこと)は彼の所属する部隊、司法局実働部隊・通称『特殊な部隊』の守衛室で上げられたゲートを見ながら大きなあくびをした。


 朝八時半。目の前を次々と出勤してきた隊員達の車やバイクが通り抜けていく。


 誠は眠い目をこすりながら背後の待機所に眼をやった。


 そこには同じ当直の当番である『特殊な部隊一気の利く若造』と呼ばれる西高志兵長と、誠が所属する人型機動兵器『シュツルム・パンツァー』のパイロットであるアン・ナン・パク軍曹が熱心に携帯ゲーム機で遊んでいた。西は『大正ロマンの国』と呼ばれていて去年ラジオ放送が首都鏡都でのみ始まったという復古主義国家の地方コロニーの貧しい小作人の平民の生まれ。アンは3年前まで内戦で荒廃していた最貧国クンサ共和国の6歳で難民キャンプから民兵組織に使い捨ての駒として売られた過去を持ってであり、二人ともゲーム機などと言う物とは縁のない生活を送ってきていた。


 二人はここ『永遠の二十世紀末』の国である東和共和国に来ると、まずテレビを買って驚き、電気が普通にあることに驚き、そして最終的にはゲーム機の存在を知るとそれに嵌って誠から見ても完全に廃人の領域に入るほどのゲーマーと化していた。


「おい、西、アン。お前等も少しは仕事くらいしろよ。俺にばかりこうして守衛の真似事をさせるのか?酷いじゃないか」


 誠はため息をつきながら二人に愚痴った。テレビやゲームがある環境が当たり前の誠にとってそんなことで人生を棒に振る二人の行動は理解不能だった。


 本来、当直任務は機動部隊第一小隊のパイロットである誠の仕事ではない。『当直の担当は整備班の野郎に任せろ』それが司法局実働部隊の副隊長で機動部隊隊長のクバルカ・ラン中佐の方針だった。当直の当番の管理をしているのは技術部部長代理で整備班長の島田正人准尉だった。そして当直を担当するのも彼の部下である整備班のメンバーと決まっていた。


 それが二人ほど今日急に用事が出来たということで、島田に舎弟扱いされている誠と機動部隊第二小隊三番機担当の部隊最年少で好奇心旺盛なアンが代わりに当直を務めるように島田から命じられた。


 人型機動兵器シュツルム・パンツァーと言った危険な機動兵器や大量の小火器を隊に保管している以上、不審者への対応が必要なのは誠にも分かった。ただ、それでもそもそもこの任務が必要なのか誠は疑問に思っていた。


 大体、整備班はここのところ手のかかる『超兵器』とも呼ばれる高性能機『武悪』が搬入されてからは徹夜で作業しているっことが多く、隊に人が居ないことはまずなかった。


 それにエロゲ作りに命を懸ける女、運航部部長であるアメリア・クラウゼ中佐の部下の運航部の女子達が女子待機室で次のゲームの製作に向けて徹夜で何か作業をしているのがいつもの事だった。


 それ以前に司法局実働部隊の隊長である嵯峨惟基特務大佐は自宅のボロアパートに帰るのが面倒くさいという理由でいつも隊長室で寝袋で寝る習慣が有るので、彼の故国甲武国では『鬼より怖い悪内府』と呼ばれる最強クラスの人斬りが眠っているという状態である。


 すなわち隊が無人と言うこともあり得ず、たとえ侵入者が有っても即座に対応できる体制はすでにできていた。下手な侵入者が有ればすぐに銃を手にした整備班員や宿直室で作業中の女子隊員が駆け付けるのは確実だし、最悪嵯峨が愛刀『粟田口国綱』でその哀れな侵入者を寝ぼけ眼で斬殺することも十分あり得る事だった。


 そんな不平不満を抱えながら相変わらずゲームを続ける西とアンを誠は振り返った。


「しかし、お前等そんなにゲームが好きなのか?仮眠をとってる時間以外はずっとゲームをしてばかりじゃないか。確かに西の出身の甲武は『大正ロマンの国』だからゲームなんか無いし、アンも内戦ばかりでゲームどころじゃ無かったのは分かるんだけどさあ……もっと他にすること無いの?この宿直室にはテレビも有るんだぞ?それを僕がつけようとすると集中が途切れるからと言って無理やり今朝させてひたすらゲームだ。本当にお前らはゲームが好きなんだな」


 誠は退屈まぎれに西達に話しかけるが西達は誠の言葉などは完全に無視し、ゲーム機から目を離すことは無かった。誠はゲームがあるこの東和共和国に産まれながらいわゆるゲーム機のゲームには全く興味が無く、あえて言えばかわいい美少女が出て来る本格的な端末を使ったゲームから入り、今では同人エロゲの刺激が強いものが好きなので、なぜ二人があんな生産性の無い市販ゲーム機に嵌っているのか理解できなかった。


「ああ、僕は何をしているんだろう?というか僕達本当に必要なの?ただ規則で決まってるからという理由でここに居るだけじゃないの?いつも『大人の決めた規則なんか守れるか!』とか抜かしてる永遠の不良少年の島田先輩のことだからこんな意味の無い仕事なんて廃止しちゃえばいいのに」


 誠は大きくため息をつきながら目の前を通り抜けていく出勤してきた隊員達の自動車を見送っていた。

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